その瞳をこっちに向けて


先を越された…と思っても今更なわけだが、悔しい気持ちが溢れてくる。それでも先に約束をしていたクラスメートとの約束が優先なわけで。


閉じた口はもう開けない。


 中畑先輩をの呼ぶ事も出来ずに、ただ見ているだけ。中畑先輩の目にだって映らない。そんな中、今度は教室から出てきた女子が中畑先輩に話し掛ける。


「祐!今日は一緒にカラオケだね!!私、すっごい楽しみ~」


 可愛いくて甘える様な声でそんな言葉を吐き、中畑先輩の右腕に抱き付く彼女。緩く巻かれた髪に短いスカート丈からスラッと伸びた脚。そして、自己主張の激しい大きな胸を惜し気もなく中畑先輩の右腕に押し当てる強引さ。



私は、……彼女の持っているものをどれも持ってない。



「楠木。痛い」


 眉間に皺を寄せ、少し低い声でそう言い自分の腕から彼女を引き剥がそうとする中畑先輩の行動に少しホッとするものの。


それでも、「痛がってる祐もかっこいい」と嬉しそうにニコニコ笑う彼女を目にして、ギュッとお守りを握る手に力が入る。


「モテるのも大変だな」


 中畑先輩とその彼女との様子を隣でケラケラ笑っている男子の言葉が頭に響く。

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