その瞳をこっちに向けて


ああ、何てこった。

私、……忘れてた。

中畑先輩は学校の王子様で。凄くモテるって事を。自分の事ばかりに頭がいっていて、すっかり忘れてた。



中畑先輩を好きな女子は、私以外にもいっぱいいるって事を…………。



 その場に立ち止まったままの私以外の時間はどんどんと進んでいく。


既に中畑先輩は背を向けて歩を進めており、何人ものクラスメートの男女が周りを囲っている。そして、彼等の響いている笑い声は徐々に遠ざかっていく。


勿論、中畑先輩も。



遠退いていく。

離れていく。



あっ…………、

ーーーー……嫌だ。



 不意に伸ばした右手の指先が視界に入ると、その指先を包み込む様にギュッと握り締めた。


「私……。私も、……中畑先輩の目に映りたい」


一人そう呟くと、視界から消えてしまった中畑先輩を追って廊下を蹴る。



何かしなきゃ。

私も、……行動を起こさなきゃ。


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