その瞳をこっちに向けて


 図書室に着くと決まった席に腰を下ろす。この1週間で確立した私の定位置は、少し奥まったカウンターから死角になっている席で、かつ中畑先輩の隣。


本棚に挟まれ他の人がほとんど見えないこの場所はまるで二人だけの空間だ。


そんな場所で、手にある本のページを捲る。そのページに綴られている文字を目で追っていく。だが、内容は全くといっていいほど入っていない。


ただ本のページを捲って、文字を目で追っているだけ。悔しいかな、これはカモフラージュってやつだ。


 以前は仁先輩を見る為に使っていたこのカモフラージュを、今はドキドキと煩い程の心臓の音を隣に座っている中畑先輩に悟られない為に使ってる。


本当に私は、……悔しい程中畑先輩の事が好きなんだと思う。でも、何だかそれが中畑先輩にバレてしまうのも癪でこうやって隠してしまう。


でもそんな自分が可愛くなく思えたりもしてしまうわけで。


 自分の行動に小さなため息を吐いた。その時、中畑先輩の人差し指が私の左頬をつついた。

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