その瞳をこっちに向けて


 腕の隙間から見える中畑先輩は、わけが分からないといわんばかりに首を傾げている。


が、私としてはそれどころじゃないわけで。


「なっ、ないですよ!めちゃくちゃ元気ですよ!この後、クラスの打ち上げ行って盛り上がりまくってきますよ!」

「あっそ」


捲し立てた私の言葉に対してのどうでもよさそうな中畑先輩の返事を聞きながらも、私の頭の中は今現在の自分のおかしな状態の考察中で。



あー、もう。

ドキドキするのも顔が熱くなるのもきっと、中畑先輩のイケメンの魔力のせいだ。

絶対そうだ。

気にくわないけど、……中畑先輩は王子様力が半端ない。



 近くに居るだけでその王子様力にやられるという結論に至ると、直ぐにでもこの場から退散しようと、「じゃあ」と頭を下げる。その時、中畑先輩の独り言の様な呟きが耳へと入ってきた。


「じゃあ、今日は一緒に帰れねぇのな」



仁先輩と中畑先輩は同じクラスなのだから、打ち上げも一緒だろう。だから、この言葉は仁先輩に向けたものじゃない。


ということはだ。今までずっとムカつく位仁先輩と一緒に帰っていた中畑先輩が、仁先輩以外に何度か一緒に帰った事のある人。そんな人は一人しか思い付かない。



その人は、……間違いなく私だ。

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