その瞳をこっちに向けて


 川辺に下りると傘を畳む。思いのほか、身体に当たる雨粒が体温を下げていく。


川辺から橋の上を見上げれば、今にも私を止めに来ようとする美音さんがそこにはいて。でもそれに首を横に振る。



来ちゃダメだと。

美音さんの為にも。

美音さんと待ち合わせをしている仁先輩の為にも。

そんな仁先輩の笑顔を見たい私の為にも。


美音さんが私を止めに来るのを諦めたのを見届けると、

「雨、強くなってきたから急がなきゃ」

そう一人呟いて川へ足を突っ込み、腰を屈めた。


 少し探してみたがあのペンダントは見付からない。いつもは停滞している川だが、今日は雨のせいか流れがあり流されたのかもしれない。


そう思うと、「流されたのかもなので、もう少し下ってみます!」と橋の上にいる美音さんに向けて叫んだ。


そのまま歩を進め川の流れに沿って少し下っていると、川辺の石と水草の中にキラリと光るものが目に入る。


「ん?」


顔を私の近付けてみれば、そこにあるのはあのペンダントで。


キラリと光ったのは仁先輩の誕生石である赤い石が光ったのだろう。

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