その瞳をこっちに向けて
「な、何すんですか!」
驚きや恥ずかしさやらで中畑先輩の胸から顔を離そうとグッと目の前の胸を押しながらそう口にしたのだが、中畑先輩の手は緩まる所か更に私を強く抱き締める。
そして中畑先輩の怒声が振り落とされた。
「お前こそ何してんだ、バカッ!こんな雨の日に川に入るなんて死にたいのかっ!バカも大概にしろっ!バカッ!!」
今の言葉だけで『バカ』って3回も言われた。中畑先輩の中で私は相当なバカらしい。
けど、中畑先輩の言葉の意味も分かる。雨の日の川に入るなんていう、かなり危ない事をしたんだから。
「わ、分かってますよ。知ってますよ、危ないことくらい」
「知ってるだけじゃ意味ないだろ!」
中畑先輩の正論に思わず目線を少し落とす。
居心地が悪い。
かといって、逃げることも出来ない。
そう思った時、再び中畑先輩の私を抱き締める力がギュッと強くなった。
「お前がいなくなったら、…………どうしようって思っただろうが。心配…かけさせんな」
今度はさっきまでとは違って、掠れた弱々しい声音。
その言葉にドクンッと心臓が大きく跳ねる。