さよならは言わない

「まあ、あまり深く考えるな」


少し照れたようにしながら森田さんは得意先へと連れていってくれた。

得意先では森田さんの部下として紹介され資料の作成は私が任されていると話してくれた。

会社の中での顔しか知らなかった森田さんだが、とてもイキイキしていて仕事への意欲がひしひしと伝わってくる。

森田さんが得意先に対してこれだけ誠意をもって仕事をしていることは、毎日の仕事の中で分かっていたことなのにとても新鮮に感じてしまった。

打ち合わせを終えて得意先の会社を出ると、森田さんは珍しく疲れた顔をしていた。


「疲れました? 珍しいですね」

「俺だって人の子だよ。緊張もするからね」

「緊張してたんですか?」

「ああ、かなり緊張したな。笹岡がどんなヘマをやらかすか期待してかなり緊張した」

「・・・・私は隣に座っていただけですけど?」



打ち合わせはほぼ森田さんの独擅場で終わったのに、まして私が口を挟むところなど何もなかったのに。

もしかして森田さんなりに気遣って冗談のつもり?


「なんて顔してるんだよ?」

「森田さんも仕事で冗談言うんですね。初めて聞きましたよ」

「・・・なんか調子狂うな」


会社で仕事している時はいつもしかめっ面をしている森田さん。

仕事中に微笑むことは多分私が知る限り1%未満かと。

休憩中は笑いかけるとほぼ100%の確率で微笑み返してくれる。

森田さんってキッチリ分けているところが凄いと思うけど疲れないのか不思議。


< 101 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop