さよならは言わない
勤務初日から随分と緊張する一日となった。
親友の友美がいるから精神的にかなり楽になるかと思っていたが、想像していたのとはかなり違っていた。
私は森田智弘(もりた ともひろ)という営業3課のやり手営業マンの事務補助としての仕事があり、この人の仕事量の多さと緻密さに舌を巻きたくなるほどだった。
今の企画が終了するまでの3か月間が契約期間らしいが、企画書提出を2週間後に控えそれまでに必要な資料や書類を準備するのが私の役目のようだ。
時間は既に定時を過ぎていてチラホラと社員は帰宅して行きフロアに残っている社員数は激減した。
「絵里、初日から大丈夫なの?」
「ええ、大丈夫よ」
「あまり無理しないでね」
「ありがとう友美」
私の残業を心配してくれる友美は一言声を掛けてからロッカー室の方へと向かった。
私の体調が万全かどうかを心配してくれているのだろうが、何も事情を知らない森田さんは私を鋭い目で睨みつけた。
「そのデータはあとどれくらいで出来上がる? 試算値が欲しくてやって貰っているんだが、その数値が出ない間は先へ進めないんだよね」
「あ、はい。もう少しかかりますが」
「今日中に終われそう?」
「…………すいません、無理かと」
「どこが?」
森田さんは慣れた仕事で作業も早いが、今日からこの仕事に入った私はまだ要領が掴めずに四苦八苦していた。
そんな私の仕事振りを覗きにやって来たのだが、私の椅子の真後ろに立たれると森田さんを意識して緊張してしまう。
まるで叱られる子猫のように小さく縮こまっている自分が情けなくてここでの仕事も無事に済むのか自信失くなってしまう。
「今日が初日にしてはまあまあかな。その調子で頼むよ」
「でも、今日中には無理ですが、いいのですか?」
「そのペースなら明日には終わるだろう。もう少ししたら帰っていいよ。初日だから」
初日だから少しの残業で帰ってもいい?
ならば、少し仕事になれた明日は一体何時まで残業すればいいの?