さよならは言わない
この日、一緒に出勤し同じ役員エレベーターから降りて来た私へは冷たい視線が待っていた。
特に営業課で仕事をしている時に周りの女性社員からの聞こえる厭味に心を痛めることになった。
「ねえ、あの人よ。どんな色気で誘惑したのかしらね。江島さんと言う恋人がいるのに図々しい人よね」
「江島さん可哀想だわ。あれだけ専務と相思相愛だったのに」
「専務も酷いわよね。あんな年増女のどこが良かったのかしら」
「もしかしたらもの凄いテクニックを持っているのかもよ?」
「まあ、嫌だ。私達の彼氏も寝取られない様にしなきゃね。くわばら、くわばら」
周りの男性社員達は興味本位で彼女らの会話を聞いては私の顔を見ている。
誰もが私を魔性の女の様に江島さんから専務を寝取った女だと思い込んでいた。
「ちょっと、あなたたちね、いい加減なこと言うのよしなさいよ! だいたい江島さんが専務の恋人のはずないでしょ! そんなあばずれ女を専務が本気で相手するわけないでしょ!」
「あら、相手されていないのは武田さんじゃないの? 専務も森田さんも笹岡さんに独占されてお可哀想に」
「上司と仕事仲間に失礼でしょ! それにあんたのような下種な女には絵里の良さなんて分からないのよ!!」
営業一課の女子に負けじと友美が反論してくれるのはいいけれど……
今は勤務時間中だし、罵る内容が尊のこととなると、これ以上騒ぎが大きくなれば上の人達からの雷が落ちるのが目に見えている。
「いい加減に止めないか!! ここは女が井戸端会議する所じゃないんだぞ!! 仕事をするところだ! 仕事する気のないヤツはさっさと会社を辞めてしまえ!!」
森田さんの怒鳴り声が営業部全体に広がっていくと流石の女子らの声もピタリと止まった。