絶対、また彼を好きにはならない。
オープニングテーマ

卒業ラプソディ

桜が、舞っていた。
まだ早いよ、と思った。

卒業いうものは、こんなにも儚い。
誰もいない廊下が、なんだか狭く感じた。
窓から差す光が、いつまにか夕暮れの色に変わっていた。
卒業式が終わって、みんなが帰ったあと。
一言でいうなら、すっからかん。
私はただぼんやりと、「1人」を眺めている。
旅立ちを感じている。
なんだかもう、ずっと昔のことみたいだ。

ガララッ

立付けの悪いとびら。
驚くほどの眩しさが教室を満たしていた。
一瞬ぎゅっと目をつぶって、後ろ手でとびらを閉めた。
昨日はみんなで落書きをした黒板。
今では悲しいほど綺麗に整えられている。
もうなにもない。
あるのは思い出だけ。教卓と、机と、椅子だけ。あと、私と。

それから君と。
涼しい横顔。

窓際の奥の隅っこの、角のとこ。
あなたの特等席。
ぐっすり眠る横顔を眺めながら、前の席に腰を下ろした。
薄黄色のカーテンがひらめき、茜色を反射する。

桜が、舞っていた。
まだ早いよ、と思った。
その花びらに触れたいと思う。

席を立ち、窓を開ける。赤い夕日にピントが合う。花びらたちが教室に入ってきた。
冬のにおいがまだしている。
あそこの公園で花火をしたこと。
このグラウンドで走った体育祭。
隣の神社のお祭り。
それから、
あの場所で君と出会ったこと。
後ろを振り向く。
桜の花びらが、君の前髪に揺られていた。

桜が、舞っていた。
まだ早いよ、と思った。
その花びらに触れたいと思う。
その前髪に触れられるのは、私だけであってほしいと思う。

また椅子に腰をかける。
ちょっと着崩した制服。ちょっと長い前髪。ちょっと長いまつげ。私にふれる、長い指。がっしりした体。
そのすべてに、私はさよならする。
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