絶対、また彼を好きにはならない。
なんか漫画みたいだってそう思いながら彼の髪をなでた。
「んんっ………んぁ」
もうちょっと寝かせてあげれば良かった、と思う。
ちらりと腕時計を横目で見た。
そんなことを気にせずふわりと眠りから覚めた彼は目をごしごしこすり、そのまま大きく伸びをする。
なんだかねこみたいで、少し笑えた。
「あれ… さやだ」
私の名前である咲耶は、彼が呼ぶとひらがなに聞こえる。
まだすこしうとうとしながら、彼は猫なで声ではにかんだ。
「なに寝ぼけたこと言って」
自然と笑みがこぼれる。
彼は大きく開けられた窓を見張って、ここちよい風に目を細めている。
そのすべてのしぐさに、胸が痛くなる。

「終わっちゃったね」
私はいつも言葉を探し出すと結局、ありきたりになってしまう。
「うん」
そう思いたくないのに、素っ気なく聞こえてしまう。

またゆっくりした時間が流れていく。

君は何とも思ってないの?
今日で最後だってこと。
君は何とも思ってないの?
私はもうここにはいられないってこと。
君は何とも思ってないの?
もう私とは会えないこと。

何だか落ち着かなくて、また席をたって窓枠に寄りかかって外に顔を出した。

やばい、と思った。
泣く、と思った。

桜が、舞っていた。
まだ早いよ、と思った。
本当は離れたくないよ、と思った。

声に出てた。

「あっごめん今のはそういうことじゃなくって、だから…」
振り返った瞬間、

君が私の腕を引いた。
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