絶対、また彼を好きにはならない。
朝。
カーテンの隙間から差す光が、私の目に届く。

ぼーっとした視界の中、目をこすり、さらに細めて時計を見ると、もう少しで8時になるところ。
いつもなら寒いはずなのに、ベットの上で2人で寝ていると、むしろ暖かく感じて、人の温度というのはすごいものだと、他人事のように感じる。

そもそもあたしは昨日そのまま寝てしまったので、下は下着だけ、上はキャミソール1枚という出で立ちで…1人なら確実に凍死しているだろう。

とりあえず何か着なきゃ…と、やっぱり冷たい空気の中、布団から出ようとシーツに足を滑らせる。

拓未はまだ寝ているようで、彼に至っては下着のみで毛布を抱きしめている。その寝顔に昨日の噛み付くような表情はなく、ふわふわした、いつもの拓未だった。

彼のことはまだ寝かせてあげたいと思い、そっと布団から這い出し、カーテンを開けようとすると、急に拓未がもぞもぞと動き出し、私のウエストに手を回すと、また布団の中に引きずり込んだ。

「もう…起きてたの?」
「…今何時?」
「8時」
「……んん」

横から抱きしめられるようにまた布団の中に戻され、抵抗する気がなくなる。

「拓未、ダメだよデートでしょ」
「んん…もうちょっと」
2人とも同じ向きで横になっているので、彼の顔は見えないけど、耳元でぼそぼそ喋るので、くすぐったい。

「女の子はいろいろ準備あるの」
「あ、俺のために可愛くしたい的なことでしょ!かわいい!」
急に明るい声になるので、思わず笑ってしまう。お腹に回っていた手がゆるまったところで、そっと這い出ようとする。
彼も止めず、私は布団から出て、とりあえずパーカーを羽織った。

「あ~さやが逃げる~」
「拓未もなんか着ないと風邪引くよ?」
「ん~… さやいないと寒い」
彼もむくっと起きあがって、盛大に目をこする。そのまま大あくびをして、ボサボサの寝癖頭をポリポリかいた。
まだ目が開かないようで、窓からの光にまた目を細める。

「ほら、これ着て?」
と、トレーナーを差し出すと、受け取りながら初めて私の姿を見たようで、
「咲耶なんて格好してんの…また襲われたい?」
「しょうがないなぁ」とでも言いたげな目でこちらを舐めまわすように見るので、とりあえずその辺にあった枕を投げて、寝室を出た。

***

その後も拓未は長いことうだうだしていて、私がシャワーをして髪を乾かし終え、服を選んでいる時にやっと、自分もシャワーから出てきた。

私は悩んでることを知られるのが恥ずかしくて脱いだ服を急いでしまった。
何着か着た末、選んだのは白いニットのタイトミニワンピース。生足はきっと彼が許さないので、薄いデニールのタイツをはく。

ネックレスを付けようとしていると、髪をタオルでわしゃわしゃと拭きながら、拓未が入ってきた。

「なに?」
「ん…付けたげる」

私は大人しくネックレスを渡して、彼につけてもらった。
鏡越しに彼と目が合って、なんだか少し照れくさくなる。
「かわいい、今日の服」
彼が満足気に笑うので、
「…高校生の頃はいくら私がおしゃれしていっても褒めてくれなかったくせに」
とイヤミを言うと、彼は決まり悪そうに笑って、
「高校生だもん、照れて言えなかったんじゃないの?…でも俺は昔から、ほんとに俺の彼女は世界一かわいいなぁって、思ってたよ?」
…今さら、そんなこと言うのはずるい。

不覚にも胸がきゅんと苦しくなって、顔が赤らむのが分かる。
「…もう、拓未も早く準備して?」
「あぁっ、照れてるんでしょ?ねぇ?」
そういうので、少し早足になって部屋から出る。
「ってか咲耶スカート短すぎない?今日は俺がいるからいいけど…」
と小言を言い出すのもなんだかかわいくて、すこし嬉しくなった。






< 48 / 51 >

この作品をシェア

pagetop