絶対、また彼を好きにはならない。
私は相当長い間考え事していたようで、拓未が顔を覗き込んでるのにもしばらく気づかなかった。

「…咲耶?」

もちろん「あやかって誰?」なんていきなり聞くことも出来ず、とりあえず「ごめんごめん」と笑い、ごまかす。
拓未は私の不自然さに気づいていたようだったが、深刻に聞きすぎない方がいいと判断したのか、「あ~わかった、明日服何着ていこうか考えてたんでしょ? かわいぃなぁ~」と、軽く流してくれた。私は少なからず拓未のそういうところが好きだ。

「なんか飲む?」
「ん、甘いの」

彼は何気なくTVをつけ、私はソファを立ち、キッチンでコーヒーカップを二つ取り出す。
一つは砂糖をいっぱいいれて、もう一つにはコーヒーフレッシュだけ。

拓未は結構な甘党で、それは昔から変わっていないようだった。

変わるモノと、変わらないモノ。

スプーンでくるくるとかき混ぜると、インスタントの粉が消えてゆく。

カップを二つ持ってリビングに帰ると、彼はつまんないとでもいうようにチャンネルを回していた。彼が座っている床のテーブルの前にカップを置き、私は両手で持って暖かいカップで手先をほぐす。まだ熱くて飲めない。

彼は一口飲んで、砂糖の加減に満足するようにすこしだけ笑顔になった。

「…ほんと、咲耶は俺のことなんでも分かるんだね」

時計は21:00をまたごうとしていた。

「なんでも…わかってあげられてるのかなぁ?」
私もコーヒーをテーブルの上に置いて、ソファから下りて拓未の隣、ラグに腰を下ろす。
「うん… やっぱ苦っ」
彼は私のカップを口に含み、あからさまに苦い顔をするので、私はまた笑ってしまった。

「さや猫舌だから冷めるまでふーふーしてあげてたよね俺、昔から」
そう言って彼は私のを飲んだそのままカップに向かって息を吹きかける。
「拓未だって、私のこと何でもわかるじゃん」
そう言って笑うと、彼はまた満足げに微笑んだ。

彼はまた私のカップをテーブルに置き、さりげなく、私の肩を引き寄せ、そっと唇を重ねる。
朝とは違う、気を奪われてしまうようなキス。

拓未は唇は離さないまま横目で見てテーブルを少し押し、スペースを作ると、私の足に自分の足を絡めるようにして、その行為を続けた。

薄目を開くと、伏せ目の拓未の姿があって、シャワーをしたくるくるの前髪が乾かないまま目にかかって、その姿は色っぽくて妖艶だった。

長い、長いキス。
息が辛くなって、離れようと彼の胸板を手で押しても、顎を引き寄せ許してくれない。
そこにふわふわした拓未の姿はない。男らしくて、すこしだけ冷淡だ。

拓未がやっと離してくれて息を大きく吸うと、休まず次の口付けが降ってくる。すこしだけ開いた私の唇の合間を縫って舌が侵入し、私の歯形をなぞる度に体が熱くなる。

お互いがお互いの中に溶け合う。
コーヒーの甘い味。私は甘すぎて、あんなの飲めない。

絡め合うキスと、啄むキス。
久しぶりの感覚に溺れていく中、私の心はまだ、「あやか」という他人に支配されている。

彼がホックを外した瞬間、夜が始まる音がした。





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