美月~大切なあなたへ~
柚莉恵以外、もう愛せないと思っていた。
嫌いになってとか、親が反対してとか、そんな理由の別れじゃなかったし
一生一緒に生きて行く覚悟もしていたんだ。
柚莉恵を失ってから、生徒達以外の前で素を出さないと決めた。
というか、大人との距離を広げることにした。
同世代の人間との関わりを深く持たないことで、柚莉恵以外の幸せを持たないようにしていたんだ。
だけど………
中学生だって、子供じゃなかったんだ。
中学生が皆、世間のしがらみを知らないピュアな人間という訳じゃないんだ。
それなりに社会を知っていて、人の苦しみを理解する力を持っているんだ。
日高は………
中学生とは思えない瞳をしていた。
俺の抱える傷を、初対面から見抜いていた。
まっすぐな瞳は、表向きの俺をあっさり通り越して、俺の真ん中を見つめていたんだ。
普段、普通に接していても、アイツはたまに、初対面で見せた瞳で見つめてくることがある。
まるで………
“先生、本当は辛いんですよね?”
とでも言うように。
いつのまにか、そんなアイツの瞳に、自分を理解してくれたような安心感を覚えた。
どこにいてもアイツを探して、アイツの声に耳を澄して………
これが恋愛感情かどうかは分からない。
柚莉恵を忘れたわけじゃない。
でも、夢に出て来た柚莉恵は怒っていた。
いつまでも引きずって、周りと壁を作っている俺に腹を立てたのかもしれない。