美月~大切なあなたへ~
アイツは気が強い女だった。


一度決めた事は絶対に曲げなかった。


だから、子供ができた時も、俺の経済力がないことを分かっていても産むと決めて曲げなかった。


俺もアイツとの結婚は考えていたし、2人で協力してお互いの両親を説得して


俺が大学を卒業したら籍を入れることを認めてもらった。



アイツの両親は、隣りの県に住んでいて、籍を入れるまでは柚莉恵を預かると言った。



俺もそれを受け入れた。



月1で、柚莉恵は俺に会いに来てくれた。



一ヵ月での変化はかなりのもので、親になる責任感は日に日に大きくなった。



柚莉恵のお腹が目立ち始めて、俺は子供服を買ってしまった。


ついつい………

あの時の俺は幸せすぎた。




翌年一月、柚莉恵は交通事故にあった。


俺に会いに来る途中だった。


二月には、俺と柚莉恵は親になってるはずだったのに…


柚莉恵も子供も即死だった。


柚莉恵は横断歩道を普通に歩いていたのに、そこに大型トラックが突っ込んで来たらしい。


運転手に掴み掛かったけど、柚莉恵が戻って来る訳なかった。


お金は柚莉恵の両親に支払われたけど、金で柚莉恵は生き返らない。



柚莉恵がいないと実感するのが怖くて、葬式会場から逃げ出した。


自分の部屋に散乱した子供服。

俺が暴れたせいだ。

部屋の真ん中のテーブルの上に、寂しそうに置かれた小さな箱。


…柚莉恵に渡すはずだったリング。


子供を抱いて、リングをはめて、幸せそうに微笑む柚莉恵を見て、ニヤけているはずだったんだ。



俺は大声で叫びながら暴れた。


テーブルはひっくり返り、タンスは倒れた。


割れた食器の破片が足に刺さった。


尻餅を付くように倒れた俺は、柚莉恵が死んでから初めて泣いた。







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