ご褒美は唇にちょうだい
「女優じゃなくて、操というひとりの女を愛してる。俺のものにしたい」


操が目を見開き、唇を震わせる。信じられないものでも見るかのように険しい表情が悲しい。


「……そんな、嘘……」


「嘘じゃない。操が世界で通用するような一流の女優になるために、俺との恋愛にうつつなんか抜かしてほしくなかった。先を見て、ストイックに演技のことだけ考える孤高の女でいてほしかった。だけど、おまえをひとりで病に立ち向かわせたかったわけじゃない。それなら、もう我慢なんかしない。好きだ、操」


操がかぶりを振った。新たな涙が勢いで飛び散る。


「無理……。半年後生きてるかわかんないんだよ、私。……幸せにしてなんて言えない。久さんに愛してもらう資格ない」


「資格なんていらない!このまま操を失ったら、俺は耐えられない!俺と生きてくれ、操。俺と一緒に生きる未来を選んでくれ」


涙をこぼし、俺から逃げようとする操をとらえた。
逃がさないようにきつく抱きしめる。

過去、何度も抱きしめた。何度もキスをした。
それなのに、今この瞬間は何もかも初めてのように新しかった。

恋の自覚。
愛する意志。

それがこれほどまでに、感覚を変えるのか。
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