ご褒美は唇にちょうだい
視界が徐々にはっきりとしてきた。

薄墨色の室内。
明け方か、夕暮れ時か。
周囲が静か過ぎるから、朝の方かもしれない。

ふと右手に青い灯りが見えた。
そしてそれがタブレット端末の発する光であることと、それを持っている人間がようやく視界に映った。


「きゅ……うさん」


私の声に久さんが顔を上げた。
頬には涙が伝っていた。


「操さん!」


「……泣いてるの?」


「お帰りなさい、操さん」


久さんが涙の残る頬を引き上げ、微笑んだ。
病室の片隅の固そうなソファから立ち上がり、私の元へ歩み寄る。


「痛いところはないですか?」


「まだ、……よくわかんない」
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