ご褒美は唇にちょうだい
「手術が終わったのは昨日の夕方です。腫瘍は全摘出できました。病理検査はまだ結果が出ていませんが、綺麗に取れたところを見て、良性腫瘍でいいだろうとのことです」


私はなんとか顔を笑顔にする。


「もう、久さん……矢継ぎ早だよ」


本当は久さんの頬の涙をぬぐってあげたいんだけれど、手は相当気合いを入れないと動きそうもない。
もう少し動かす練習がいる。


「泣いてたの?どうしたの?」


「『絆の詩』を最初から視なおしていました。……本当にいい作品になったなと、つい」


久さんがはにかんだように頬を歪め、涙をぬぐった。


「気が早いよ。最終回視てから言って」


「ええ」


そこで私たちはわずかに黙った。

お互いの目を見て、なんと言ったものか考えた。

言いたい事はたくさんあったし、ふたりで考えたいことも山ほどだった。

でも、それらはこれからじっくり語り合えることでもあった。

これからは、ふたりで並んで生きていく。
それが、私たちの関係をどう変化させるかはわからない。
私の仕事のスタンスをどう変えるかもわからない。
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