次の年には忘れてしまう
 
 
――――――
――――
――


「こんばんは」


「っ!?」


「……驚かせてしまい申し訳ありません」


「……、いいえ」


三度目も、十二月三十一日。時刻も一年前のそれと同じだった。場所も、一年前と全く同じ。


黒いスーツに黒いダウンコート。その容姿も雪穂を見る目もテノールの声も、何ひとつ変わっていなくて、幻覚とも思ってしまった。雪穂が造り出した想いの具現化。


今年は積雪はない。元々、この地域に雪はあまり降らず、前の二回が珍しかったほう。冬の空気は澄んでいて、冬夜の輪郭が近づいてくるほどに鮮やかになる。それは灯りの足りない夜の墓地でも。


玉砂利を踏む冬夜の足音で現実だと遅れた理解を示した雪穂は、けれど何故この人がここにいるのだろうと、再び会えて嬉しい気持ちの前に首を傾げた。


雪穂の祖母の墓の前、今年はバースデーケーキをひとすくい口にする前に立ち上がり、五メートル右後方の冬夜の妻が眠る墓に目をやる。そこには、ここからでは名前は分からないけれど、白い花があって。雪穂はそうなのねと理解する。


雪穂が今日でないといけないように、冬夜も、今日妻の元へ訪れる理由があるのだろう。


……訊かなくてもいいことだ。




「お誕生日、おめでとうございます」


一年ぶりのその祝いの言葉に、雪穂は口角が必要以上に上がりそうになるのを抑えた。


「ありがとうございます」


くすりと空気を揺らす優しい息づかいと共に、冬夜の下げていた腕がゆっくりと雪穂に向かって伸ばされた。その手の中には小さな包みがあり、それは雪穂に渡される。冬夜の手中で存在全て隠されたものは、雪穂の片手では覆いきれない。何か、柔らかいものの感触がする。


「誕生日プレゼントです」


解いた包みの中は、真っ白なマシュマロだった。


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