春風センチメンタル

 発車のベルと白線から下がれというアナウンスがホームに鳴り響く。

「彼氏出来たら報告してよー」

「そっちこそ、そういう時にはちゃんと写真送ってね!」

 その時不意に目頭がじわっと熱くなって、慌てて私は目にゴミが入ったふりをした。
 別離を寂しく思っている自覚はある。けれど進路が別れた時から分かっていた事だ。遠距離になる恋人同士でもあるまいし、別に泣く程の事じゃないと思っていたのに。

 閉まっていくドアの向こうで、舞子が満面の笑みで手を振っている。
 声はもう届かない。だから私も笑って手を振った。親友の門出の日くらい気持よく送り出したい。

 列車が走り出し彼女の姿があっという間に離れて行く。見えなくなった、と思った瞬間に目の端からポロリと一滴涙が零れ落ちた。
 しばらく私はその場から動かずに、眼球の奥から湧き出す熱が落ち着くまで立ち尽くしていた。落ち着いた所で鞄からポケットティッシュを取り出し、目を抑えてから鼻をかんでホームに設置されたゴミ箱へと放り込む。
 無理に止めようとしなかったのが良かったのか、もやもやしていた気持ちも水分と一緒に流れていった様だった。やけにすっきりした気分でエスカレーターへと向かおうとした時、ポケットの中で携帯が震えた。

『ドアが閉まって百合が見えなくなったら平気なふり出来なくなって思わず涙出た!またね』

 車内から送っているらしい舞子からのメッセージ。

 なんだ、同じじゃん。そう気がついて思わず笑いそうになった。
 置いて行かれた様で寂しかったのだ。舞子がとにかく新生活に前向きなのも、こっちばかりが気にしているようで悔しかった。でも舞子に寂しさや不安がない訳じゃなくて、少し虚勢を張っている部分はきっとあった。
 もう少し素直に寂しがる様子を見せてくれても良かったのに。ああでも駅のホームで女二人が泣きながら別れを惜しんでる絵はちょっと微妙かも。

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