君に向かって、僕は叫ぶ。

優雨と出会った日から、丸一日経った。

「出かけようかな...。」

僕は読書をするのをやめて、部屋の窓から外を見る。

まぁ見えるのは、隣の家の窓だけど。

僕の家は、隣の家と寄り添う形で作られていて、その隣の家が美咲の家だ。

僕と美咲は、小さいころから一緒だったけど、
美咲が中学2年の時、美咲の両親は離婚し、美咲はお父さんと弟の大地(だいち)と三人になった。

でも美咲のお父さんは、美咲達のために仕事をしていて、家に帰ってくることはほとんどない。

だからよく美咲と大地が僕の家に遊びに来ていた。

僕の母さんの作るご飯を一緒に食べたり、渚と大地は同じ年でよく遊んでいた。


でも今では、僕を心配して毎日のように美咲が僕の家に来てくれる。

ご飯を作ってくれたり、いろいろ僕のために頑張ってくれている。

だから、美咲が来た時のために、僕は家を出る前に、"ちょっと出かけてくるね"と置手紙をした。

昨日のことを思うと、美咲に心配かけないようにしなきゃいけないと思ったから。


出かける先は決まってる。

優雨と会った公園だ。

家を出てから何回も考えていたことがある。

「優雨、いるかな...?」

口に出しても答えは見つからない。

もしいなかったら....?

でも、うなづいてくれたし....。

そこまで考えたとき、僕は大事なことに気付いた。

「僕、明日会おうなんて言ってない!」

確かに。

------「明日も、明後日も、君と話したい!
   だから、また会ってくれる?」」

とは言ったけど、だからといって約束したわけじゃないし...。

優雨は、いないかもしれない。

そう覚悟を決めて歩いていく。

公園が見えてくると足が重くなった気がした。


公園に着いて、ひとまずベンチに座ろうと入っていくと、人影が見えた。

「.....!」


いた....。


ゆっくり近づいてみると、優雨は空を見上げていた。

風がその長い髪を揺らして、僕の気配を気付かせる。

僕のことを見ると、ふわりと笑う。

「やあ、湊。昨日ぶりだね。」

僕も優雨と同じように笑う。

「うん、優雨。良かった、君とまた会えた。」

そう言って、昨日みたいに優雨の隣に座る。

「いつからここにいたの?」

「今、13時だから...1時間くらい前かな。」

「そうだったんだ!なんか待たせた形になっちゃったね...。ごめんね。」

「ううん。私が来たかっただけだから。」

そう話す優雨に、"そっか"と僕は笑う。


この時間が、まるで昨日みたいで少しほっとした時、僕は気付いた。

昨日とは違う事に。

「優雨?」


優雨が震えていた。


「えっ....?な、なに....?」


声も震えて、消えそうだった。


その時、僕は知った。

優雨が涙を流すのをこらえていることを。

「ねぇ、優雨。」

だから、僕は聞いた。


「泣きたい?」って。


そして優雨は、小さく、本当に小さくうなづいた。

僕は、そっと優雨を自分に引き寄せた。

「.....っ?」

そして、驚く優雨に笑いかける。


「なら、"泣いていいよ。僕が、隠してあげるから。"

...ねぇ、優雨。ありがとう、僕にこの言葉を言ってくれて。

だから今度は、君からもらった言葉を、僕が君にあげる。」


「....っうぅ...!...うぁっあああん...!」

その瞬間、優雨は泣いた。

泣いて、泣いて、泣き続けた。

そんな優雨の背中をさすりながら、僕は思った。

優雨はずっと、あの笑顔の裏にたくさんの涙をこらえていたんだと。

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