君に向かって、僕は叫ぶ。
終:365日を生きた君へ。

「優雨。きたよ。」

そう言って病室に入る。

「今日はいい天気だ。もう熱く感じてきたよ。そろそろ、夏のお出ましだ。」

僕は話し続ける。

「ねぇ優雨。もうすぐ美咲も来るからさ、リンゴでも食べるかい?」

「......。」

返事をしない彼女に。

「優雨ってば....ねぇっ...!」


あれから時間が過ぎるにつれ、優雨の容態は悪くなっていった。

優雨の努力も空しく、徐々に衰弱していった優雨は、昏睡状態に陥っている。

生と死の間をさまよっている彼女は、いつ死んでしまうか分からないと医者は言った。

「嫌だ...優雨ぅ!僕から離れて行かないでくれ...!!」


優雨の手を握りしめてそう叫んだ時、少しだけ優雨の手が動いた気がした。


「優雨?....優雨!!目を開けて!僕はここにいる...!そばにいるからっ!」

聞こえるように届くように、僕は叫ぶ。

そして、優雨の瞼がゆっくりと、開いた。

「....み、な...と....。」

か細い声だったけど、優雨は僕の名前を呼んだ。

「優雨....っ!!」

「みな...と...み、な、と...湊....。」

何回も僕を呼ぶ優雨は、今にも消えてしまいそうで思わず握った手に力を入れる。

どこかに消えてしまいそうな彼女を、離さないように。

「優雨!!湊!!!」

美咲も僕らのもとに駆け寄ってくる。

「み、さき...みさ...き、だ...。」

力を振り絞るように、優雨は笑う。

「うん...!うん...!私だよ、優雨...!よかった...。」

美咲はそう言ったけど、僕はそう思うことが出来なかった。


だって。

僕の手を掴んでいる優雨の手は、とても冷たかったから。



「優雨...?っ!?ちょっと待ってて!!今すぐ先生を呼ぶからっ!.....っ?」

立ち上がろうとしたとき、優雨がそれを止めた。

そして、満面の笑みを浮かべて、首を横に振った。

まるで、"もういいの。"とでも言ってるみたいに。

「ふざけないでよっ!優雨!嫌だよ!」

「ごめ...、...ね..ごめんね...。」

泣きわめく僕の頬に触れながら、優雨はそう言う。

「何がごめんね、なの...?謝らないでよ!...これじゃ、まるで...別れの時みたいじゃんかっ...!!」


嫌だ。嫌だ。


「そう、だね...。じゃあ...湊、美咲...私、幸せ...。」

「「...っ!!!!」」


「だい...すき...。」

優雨は、笑いながらそう言って、

そして。

「あ り が と う 。」

ゆっくりとその瞼を閉ざした。

綺麗すぎる彼女は、やっぱり笑っていた。
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