命をかけて恋をした、ちっぽけな少年の物語
第2章 晴れ時々曇り


「どうだった?失敗したか」
未だに夢見心地の翔を亮介がからかう。
「別に?」
二人はマクドナルドの四人用のテーブル席で課題であるレポートを進める。
「なんだよ!どっちなんだよ」
翔は出来るだけ平常心を装って答えた。
「まあ、付き合ってるけど?」
翔は内心ニヤけまくりながら、横井の方をちらりと伺う。予想以上に冷静な彼の顔に、翔は少し驚いた。
彼は翔に言った。
「なあ、俺ら親友だろ?見栄張る必要なんてないだろ?」
親友を本気で殴りたいと思ったのは初めてだ。横井の哀れむような目に、翔は苛立ちを募らせた。
「本当だよ!昨日から凛さんと付き合ってる!」
彼の驚いた顔と言ったらなんとも気の抜けた顔で、夏希にも見せてやりたいと思ったほどだった。
「マジか…?赤羽さんとお前が?」
「そうだよ」
向かいの席に座っていた横井は、翔の隣に身を寄せてきて周りに聞こえないように囁いた。
「前にさ、彼女なんていなくても生きていけるし、いらないよなって涙目で俺に言ったよな?」
「あれ?そんなことあったっけ?」
横井はため息をついた。そして笑って、翔の肩を叩いて言った。
「よかったな。正直ダメかと思ったぜ」
翔もつられて笑顔になる。人に言われると、凛と付き合っている実感が湧いてきて、また嬉しくなる。
「うん、かなりの男嫌いみたいだったしね」
横井はそうだなと頷いて席に戻った。
「俺の時だって、必要最低限の会話しかしてくれなくてさ。夏希と話すときはめちゃくちゃ笑顔なのにさ。お前はどうだった?」
翔は結露してカップが濡れてしまったコーラを口に含んで言った。
「僕もそうだった」
可哀想だなと横井は言っていたが、翔は少しずつ変わっていけばいいと思っていた。
無理に急ぐ必要はない。少し慎重すぎるかもしれないと、横井に相談しようとも思ったがやめておいた。
彼女とはゆっくりゆっくり信頼関係を築いていければ良い……そう言い聞かせた。
今は課題に集中しなければと、改めて気持ちを入れ替える。
このまま行けば、もしかすると本当にもしかして、凛と一緒になるかもしれない。それなら、凛を幸せにしなければならないのは自分。
今から頑張らなければと、はやる気持ちで課題に取り掛かった。
それにしても彼女の男嫌いにはあまりに異常だと翔は思った。
初デートの後、帰る時の会話が翔の脳裏に浮かんだ。

「危ないですから、送りますよ」

「あなたが危ない人ではないとは限りませんから、結構です」

あの…僕、一応彼氏ですけど。
さすがにこの時はショックが大きかった。
翔はまた、課題に集中できない自分を戒めつつポケットから携帯を出し、凛にメールを送る。
時計を見るとちょうどお昼時だ。忙しいとは言ってもお昼休みくらいはあるだろう。
「赤羽さんにメールするのか?」
横井が聞いた。
「そろそろ昼休みかなって思ってさ」

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