この恋、賞味期限切れ

金曜日




黒板にチョークが当たる音がリズムよく鳴る。

イコールの書かれた右横に、「金曜日」の文字。



今日はついに金曜日だ……!



二時間目の数学の時間。

黒板には数字とアルファベットの文字が並ぶ。


ちんぷんかんぷんで、どうも苦手。
だけど、今日は気分よく過ごせそう。



こっそり隣の席に目を向けた。


数式を解くのをあきらめた私とはちがい、南は真面目に先生の説明を咀嚼していた。


シャーペンをくるくる回す、骨ばった手。

うーん……と、とがらせる唇。

片方だけ上がった眉毛。

問題が解けたのか、ニィッとゆるめられた口元。


感情がわかりやすいなあ。
何を考えてるのか、バレバレだよ。

笑っちゃいそう。



ニヤニヤしながらずうっと南のことを見つめているのに、当の本人は一切気づかない。

気づいたら気づいたで焦っちゃうんだけど。


ちょっとくらいこっち向いてくれてもよくない?


バカ。



心の声が聞こえたのか、こげ茶色の瞳が私を捉えた。


わ! 気づいた!

いざ気づかれるとちょっと困る。


南はなにやらノートの隅に何かを書き始めた。


何を書いてるんだろう……。

ノートを覗き込むが、南の手で隠れて見えない。


書き終えると、ドンッ!と私のほうにノートを見せてくる。


白いページの端っこ。

意外と上手な字でつづられた、たった一言。



“ちゃんと授業に集中しろっ!”



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