この恋、賞味期限切れ
「ブラウニー、俺も欲しいな」
「いいよ。南くんにも渡すね」
数式を解く手を止め、南もお菓子を欲しがった。
やった! と嬉しがる様は、まるでエサを与えられた犬のよう。
もしかして、南も、晴ちゃんみたいな女の子らしい子が好きなのかな。
「南って甘党だよね」
「そうか?」
「そうだよ! 紅茶に砂糖を五つも入れるんでしょ?」
「それくらい入れねぇと飲めねぇんだもん」
だもん、ってなんだ。かわいいな。
硬派な顔をしてるくせに甘党なんて意外だった。あれだ、いわゆるギャップってやつだ。
ずるい。やっぱりかわいいって思っちゃう。
私と南は、一年生のときも同じクラスだった。
“サッカー部の爽やかくん”
それが去年の印象。少女漫画に出てきそうな男の子だと思った。
でも、ちがった。
ただの“爽やかくん”じゃなかった。
二年生になり、南と隣の席になった。
南のことをひとつずつ知っていった。
実は甘いもの好きなところ、笑うと八重歯が見えるところ、しれっと優しいことをしちゃうところ。
“爽やかでかっこいい”よりも“かわいい”のほうをたくさん秘めていて、うっかりはまってしまいそう。
そんな南がモテないはずがなく、学年で一、二を争う人気者だ。
今はサッカー部をやめてしまったけれど、去年まではサッカー部の期待のエースとして騒がれていただけあり、全生徒の注目の的だった。
特に女子からの人気は、今もなお衰え知らず。このあいだ先輩から告白されているところを目撃したし、隣のクラスの子が南に片思いしているといううわさも聞いた。
だけど、南は、全員振ってるらしい。
美人な先輩の告白も断るなんてありえない、とクラスの男子に冗談半分にやっかまれていた。
どんな子なら好きになるんだろう。
私だったら……。
平凡な顔。耳の下あたりでふたつにくくった黒髪。勉強は苦手だし、晴ちゃんみたいな器用さは持ち合わせていない。
美人な先輩でもだめだったのに、私じゃもっとだめ。圏外確定。
そうやって気にしちゃうってことはやっぱり……そういうことなのかな?