君に届けた春風
再会
目が合う高屋と奈津。
奈津は、口が半開きになりア然とした表情だ。

奈津の中で万引きを助けられたあの記憶が思い出されていた。

奈津と高屋を見ながらあかねが切り出した。

あかね「何…?奈津と高屋知り合いなの?」

高屋「ん…」と奈津の顔を伺う。

奈津は目を反らし困った表情をしている
そう…いじめに遭ってて万引きさせられそうになった事を知られたくないからだ。

高屋「ちょっとね〜俺が助けられたんだ…こいつに」と奈津を横目で見てにこやかに言った。

奈津は。はっとした。(違う…助けられたのは私なのに…)奈津は両手でスカートを握った。

あかね「えー!なに?それ!どいうこと?」
興味津々に奈津と高屋の顔を交互に見る。

高屋「まぁ。そのうち話すよ」と言葉を濁す。

長谷部「何だよ〜?水くせえぞ!何があった?」と高屋の首に腕を回し空いてる手で高屋の腹を軽くチョップする。

高屋「めぇ…止めろよ!離せ!」長谷部の腕から頭を抜こうとふざけあってある。

長谷部「言えよ〜このやろ〜。友達だろ…?」

長谷部の言った言葉に恐怖を感じた奈津。
(友達だろ…?友達だろ…?)長谷部の声
(友達でしょ?奈津…ねぇ。私達友達でしょ?)
奈津のいじめの記憶が蘇る。心が怯えた。

奈津は両手で耳を抑え「やめて!!」

教室にいる皆が驚き、一斉に奈津を見る。

長谷部も高屋もあかねも固まったように奈津を見た。

あかね「な…つ…?どう…したの?」恐る恐る口を開き奈津の顔を覗き込む。

奈津は立ち上がり、皆が自分を見ている事に、恐怖感が倍増した。「ご…ごめんなさい…」と震えた声で言い教室を出る。

あかねがすぐ追いかけようと立ち上がった時
高屋が止め「俺が行く」と。何かを察した表情で高屋は奈津を追いかけた。

長谷部「大丈夫だよ…あいつに任せた方がいい」あかねに優しい眼差しで言った。

奈津は、非常階段で両膝を抱え座り泣いていた。高屋はそんな奈津の姿を見つめた。


高屋「…水月…」優しい声で、ゆっくりと奈津に近づき、奈津の横に座る

奈津「私…私…友達をつくるのが恐い…」顔を伏せながら言った。

高屋「なんで…?」
高屋は奈津の顔を覗き込む。
奈津は、顔を伏せたままゆっくり話し始めた。


奈津「友達に裏切られて。また傷付いて。友達でしょ?って攻めて。私は…」
高屋「なぁ。水月…おまえにとって友達って何?」奈津の話を遮る。
奈津「…わからない…」
高屋「本当の友達ってさ。信頼し合って。思いやって。助け合える存在なんじゃないかな。
俺らとあいつら(奈津のいじめっ子達)を一緒にするなよ…。俺…おまえを助けたい」

奈津「助ける…って。ムリだよ。そんなの」

高屋「ムリかどうかを決めるのはおまえじゃないよ」と奈津を見つめる。
俯いてた奈津も顔を上げ、高屋を見つめた。2人の目が合った時高屋は微笑んだ

高屋「大丈夫…。おまえは、もう…1人じゃない。だから…もう1人で悩むな。」
高屋は、奈津の頭を優しく撫でる。

奈津は俯き、涙が出た。でも、その涙は今まで出ていた辛くて悲しい涙ではなかった。


奈津「…ありがとう…高屋…くん」奈津は、鼻をすすり、少し照れながら言った。
奈津は赤くなった顔を隠すのに必死だ。

高屋は「…高屋でいいよ。何なら”はると”って呼んでもいいよ」にっこり笑い奈津の顔を覗く

奈津は顔から火が出そうなくらい熱くなった。

奈津「それは、ムリ!」
高屋「なんで?」高屋は、奈津をからかうかのように、何度も名前で呼ぶよう頼んだ。
奈津は高屋の顔を見れず顔を背けながら嫌がった。いつの間にか奈津は「イヤだ。ムリ。」と言いながら高屋との会話のやり取りを楽しんでいた。

高屋も楽しそうに奈津をからかっていた。

2人の距離が少し近付いたようだ。

奈津は高屋と打ち解けた後、あかねと長谷部が待つ教室に戻った。

気にしていたあかねに奈津は笑顔で謝っていた。高屋も長谷部と目を合わせ頷き合った。

そして・・・昼休み

奈津とあかねは向かい合い、右隣に高屋と長谷部が向かい合い、机の上に弁当を広げて食べている。

長谷部「藤野〜おまえ、Aアニメの新刊買ったんだろ?貸してよ〜」
あかね「やだよ〜。てか、まだCアニメ三巻返してもらってないんですけど?」あかねは長谷部を睨みつけて言った。
長谷部「あれ?そうだっけ?」ととぼける。

言い合いしているあかねと長谷部を見ながら奈津はキョトンとした。

高屋「あー見えて。実はこの2人付き合ってんだよ。」そっと奈津の耳に入れると。

長谷部「高屋!」
あかね「高屋!」
2人が同時に声を揃えた。

高屋は一瞬驚いた表情するが、奈津に微笑み

高屋「な?仲良いだろ?」

あかね「もう!何で言っちゃうかな〜」口を尖らせている

高屋「わりぃ。でも、遅かれ早かれすぐわかるんだからいいじゃん」高屋はニコニコしていた

そんな仲間に出会った奈津は、初めて本当の友達ができた感覚が新鮮で嬉しかった。

奈津の幸せそうな横顔を愛おしく見つめた高屋は、ふと長谷部の方を見ると、ニヤニヤしながら高屋を見ていた。

高屋「んだよ…!」君悪そうに言った

長谷部「いや…べつに〜」と。にやけながら言葉を濁す
高屋「おまえ…何か変な事企んでるだろ!」
長谷部に自分の気持ちに感づかれたのを誤魔化すかのように問い詰めた。
長谷部は冷や汗気味に否定する

高屋は長谷部の好きな唐揚げをサッと手掴みし

高屋「も〜らい!」と言って長谷部の弁当の中にあった唐揚げを口に入れる。

長谷部「あ!おまえ!このヤロー!返せ!」
と高屋の首を掴む

高屋は「うまい!」と言いながらモグモグしながら長谷部から逃げる。
長谷部は負けじと高屋を追いかけまわす。

その2人の様子を楽しそうに見ていた奈津

あかね「はぁ〜ったく。男って子供みたいだよね〜」と呆れた顔で言った。

奈津「でも、そんな子供みたいな人を好きになったんでしょ?」

あかね「まぁね…(ニコ)」
頬がほんのり赤くなり、ニヤけている。

奈津「ごちそうさまです」と羨ましそうに言った。

あかね「んで?奈津は?どうなの?」
奈津の顔を覗き込む様に訪ねる

奈津「どう…って?」

あかね「誰かいないの?いいな〜ぁって思う人。彼氏とかいたことないの?」

奈津「ない。ない。」冷や汗かきながら奈津は首を横にふった。

あかね「ん〜…このクラス……じゃ…いないか…」と教室にいる男子を見渡し言った。

あかね「高屋はダメだけど、誰か紹介しようか?奈津ならすぐ彼氏できるよ」と。ポンっと奈津の肩を叩く。

奈津「あ…ありがとう。でも。私…よくわからないから。てか。高屋はダメってどういう意味?」自分の肩にあるあかねの手を握り聞いてみる。

奈津はあかねの目を見ながら唾液をゴクっと飲み込んだ。

あかね「高屋には…忘れられない人がいるから」

奈津「忘れられない人…?」
(高屋の忘れられない人って、どんな人なんだろう…?)チラっと長谷部とふざけあってる高屋を見ながら思った。

あかね「…だから、高屋はダメなんだよね〜」
奈津「…そう…なんだ」と言いながらあかねの方に向き直す。

あかねは天井を見ながら口が開く。

あかね「ん…なんか。高屋。大切な人と別れてから、彼女作らなかったんだよね。告った子はいっぱいいたんだけどさ。忘れられない人がいるって断ってさ…」

奈津は俯いて弁当を食べ始める。

ふざけあってた高屋と長谷部が戻ってきた。

長谷部「な〜に話してんの?」

あかね「ないしょ!女同士の話」

長谷部「わ!気になる〜。あ!また変な事…」
あかねをジロっと睨む。

あかね「いや!違う。違う!」と。あかねは話を誤魔化す。

また、2人のやり取りが始まった。

奈津は高屋を見た。高屋はあかねと長谷部の会話のやり取りを聞きながら楽しんでいた。
高屋が奈津の方を向く。奈津は目が合わないように反らす。

奈津は自分の中にある気持ちに違和感を感じた

奈津の心はドキドキして…これが何なのか本人はまだ気付かなかった。

そう。これが彼女にとって初めての事だから…

彼女にやっときたのだ。彼女の春風が。




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