冷酷上司の甘いささやき
彼氏はいりません
「彼氏ほしい」

「結婚したい」


私がよく口にする言葉だ。


二十八歳、独身、彼氏なしとくれば、この言葉を口にするのはむしろ自然なこととも思う。



でも、これは本音じゃなくて……。





「俺、由依(ゆい)ちゃんのLINE知りたい〜」

そう言って私にすり寄ってくる目の前の男の子に苦笑していると、後輩の日野(ひの)さんが私たちの間に入る。


「ちょっと、コータ! 戸田(とだ)さん嫌がってるんだからやめなよ! あと、必要以上に近寄るのも禁止!」

「なんだよ〜」

そんなふたりのやりとりを見ながら、私はまた、苦笑をこぼした。



金曜日の仕事終わり、男女が四人ずつ集まった、カーテンで仕切られた居酒屋の個室はとてもにぎやかだ。はたから見れば合コンだってバレバレだけど、事実なのだから仕方ない。


私にとってはなかなか気をつかい、なかなか長く感じられる時間だったけど、予定通り二十二時というそんなに遅くない時間にお開きになったのは幸いだった。



「じゃ、各自で解散ってことで」

幹事を務めてくれた日野さんがそう言うと、私たちはそれぞれ解散する。

バーへ行く人、カラオケへ行く人に別れたけど、私と日野さんはこのまま家へと帰るため、街灯に照らされる薄暗い道を、駅に向かっていっしょに歩いていく。
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