冷酷上司の甘いささやき
思ったことが言えない
次の日も、その次の日も、とくに変わりのない日々が続いた。

課長が彼女と別れたことは、たぶん私以外、誰も知らない。というか、彼女がいたこと自体、誰にも知られてないかも。



「日野さんさ、ここの会社の会計の人が来たらこの書類渡すように前言ったよね」

「あっ、はい、すみません!」

日野さんは、今日も課長に怯えている。
まあ、課長も課長で相変わらず笑顔はないし口数も少ないから仕方ないのかもしれないけど……。



「遠山課長、ほんと怖すぎてやっぱりニガテです」

営業時間が過ぎ、日野さんが私の机に伝票を持ってきながらボソッとそう言った。


「まあ、そうだね」

本当は、思ったよりいい人かもしれないよ、と言おうかとも思ったけど、あの夜のことはほかの誰にも言わない方がいいと思うからとりあえずそう答えた。


それに、課長が本当は怖くない人だっていうことは……私だけが知ってればいいような……



……あれ? なんでこんなこと思うんだろう?




そんなことを感じながら仕事を続けていたその日の、帰る直前だった。


「戸田ちゃん」

私の席までやって来た次長に声をかけられた。


「はい、なんですか?」

「来週から入ってくる新人の指導係、戸田ちゃんにやってもらうからな」

「え?」

いつでも明るい性格の次長は、飄々となんでもないことのようにそう言うけど、私はかなり戸惑っていた。

確かに次長の言う通り、現在研修期間中の新入社員たちが来週それぞれの支店に配属されることになっていて、うちの店にもひとり入ってくる予定になっている。確か女の子がひとり。でも、私は今窓口担当で接客が絶えないし、新人の子を指導する時間なんてないけど……。私がそれを次長に話すと。
< 23 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop