冷酷上司の甘いささやき
「あー、めっちゃわかる」

「ほんとですか!」

今まで誰にも理解してもらえなかったのに、課長に、こんなにあっさりわかってもらえるなんて!


「とりあえず、早く家入りな。明日も仕事だし、その酒飲んでさっさと寝な」

「は、はいっ。課長も、まだ終電間に合いますよね。気をつけて帰ってくださいっ」

「ん」

じゃ、また明日。と言って課長は去っていった。私も、また明日、と課長の背中に返した。




自分の部屋に入ると、とりあえず部屋の真ん中で缶ビールを開ける。

本当は、ビールを飲みながらパンフレットを読むはずだったのに……私はなぜか、ぼんやりと課長のことを考えていた。

価値観の同じ、課長。
普段は少し厳しいけど、本当はどこかやさしい、課長。

課長ともう少し、お話してみたかったな。


……私が誰かに対してこんな風に思うの、珍しいかもしれない。



普段、映画のパンフレットを読みながら飲むビールは格段においしい。

でも、今日も。

パンフレットを読みながらじゃなかったけど、ビールはとてもおいしく感じられた。
< 22 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop