冷酷上司の甘いささやき
思ったことを言った結果
翌日。いつも通りの時間に出勤すると、営業室の入り口で、たまたま課長とすれ違った。


「あ、おはようございます」

「おはよ」

課長からは、いつも通りの短いあいさつ。
でも、昨日のことが気になったので、私は周りに人がいないのを確認してから、小声で「昨日は大丈夫でしたか?」と聞いてみる。余計なお世話かなと思ったけど。

すると課長は。


「……眠い」

「え?」

「寝かせてもらえなかった」

「え!? それはどういう……」

「あ、下ネタじゃないから。単に、ずっと愚痴られてて寝かせてもらえなかったってだけだから」

「だ、誰も下ネタとは思ってませんよっ。で、でもそれ大変でしたね。大丈夫でしたか?」

「ん」

課長は、最後は課長らしく短い返答をすると、そのまま廊下に出ていった。


無表情で、ややそっけないのは相変わらずだけど、課長がまた、普段はほかの人には見せないような一面を私に見せてくれた。しかも、今度は職場内で。深い意味なんてないのはわかってる。あの日たまたまプライベートな課長と遭遇して、私のプライベートな一面もバレて、でもそれを課長も共感してくれて。
だから課長も、私に対して少し心を許してくれるようになったのかも、ってただそれだけのことだと思う。

それでも、それがなんだかすごくうれしくて。
昨日の夜から今までずっと落ち込んでいたけど、その気持ちが少しだけ軽くなったような、そんな気がした。



その日の午前十時頃だった。

仕事をしていると、自分の席から、課長が部長に呼ばれて会議室にふたりで入っていくのが見えた。
なにかあったのかな? とは思ったけど、そこまで気にすることでもないと思い、私は阿部さんへの指導を再開した。
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