魔法学園の異端児(イレギュラー)
日常から非日常、そしてまた日常へ
日本 東京 8月8日 午後3時
俺は10歳の誕生日を翌日に控えたこの日、一人の少女と出会いそして、俺の人生は大きく変わっていった――。

――その日、俺はほとんどだれも使っていないような薄暗い路地裏をひたすら走り続けていた。
「な、なんなんだよ。あいつらまじ――」
しかし、俺の言葉をさえぎって後ろで何かが爆発した。そして、爆風が無防備な俺の背中を襲う。2m程転がり壁に背中からぶつかる。やばい、あいつが……いや、あいつ達が来る―。しかし、ぶつかった時に背中と一緒に頭も打ったらしく体が思うように動かない、それに意識も……。俺が通った道から数人の走ってくる足音がする。そして、意識を失う前に見たのは俺をかばう様に前に立つ血で染めたような俺と歳の変わらない赤髪の少女だった……。

「また、あの時の夢か……」
そう言って頭を押さえながら起き上がり、カレンダーを見る。今日は、8月8日。誕生日の前日。7年前のあの日を境に原因はわからないがこの日になると同じ夢を見る。だが、今はそんなことよりも、
「あぁ、まだ寝たりないってのに、学校かよ……」
今日は学校で生徒会の定期会議があるので、俺はぼやきながらも寝ていたベットを起き上がり、制服に着替えふと時計を見ると、集合時間の8時の10分前を、示している。
「やばっ!もうこんな時間、朝飯食えないじゃん!」
俺は急いで荷物をまとめ、自分の部屋を飛び出た。そして、学校の門をくぐる。
その間にかかった時間は3分。いくら、寮が学校から近いと言っても我ながらすごい。はっきりいって、自分でもわからない。だが、ここからが問題だよな――。
何といってもこの学校、国立月山学園。俺が今いる世界と言っても日本のパラレルワールドらしいのだが、この世界に連れてこられて6年が経ち、ある程度この世界にも慣れてきたころで、そして、俺が住んでいる二葉(元の日本で言う東京辺りらしい)にあるこの国で一番広い敷地をもつ学校。専用施設が多いせいか、本校舎が校門からやたら遠く、その距離約1㎞。俺が1㎞を全力で走って4分前後、本校舎に入ってから生徒会室に行くまでにかかる時間およそ5分。しかし、集合時間まであと七分。やばい、これは間に合わない。しかたない、あれを使うしかないか……。これ思考に要する時間0.5秒。
「やっぱり、使わないとだめだよな……」
そして、一回深呼吸をして右腕にはめている腕輪型MADに触れる。(MADとはマジックアシストデバイスの略称。腕輪型、指輪型、ピアス型等種類も様々。機能は名前の通り魔法をアシストするためのもの。正確に言えば、魔法の発動時間の短縮と威力の制御。基本小等部または小学校の入学時に全員配布される。また、学生の身分を持つものは法律で着用、使用が決められている。しかし、大人になると使わなくなる人もいる。)と同時にMADが光り、足元に幾何学模様の魔法陣が浮かびだす。俺の体を黄色い光が包み込んでいく。その時に少し体がしびれるが今はそれどころではないから、無視する。頭まで光で包みこんだことを感じると同時に俺は常人ではあり得ないほどの速さで走り出した。途中何人かの生徒を紙一重でかわし、追い抜き、昇降口に到着。
かかった時間は2分。そう、俺が走る前に使ったのが魔法。魔法名は《雷強化(ライトニングチャージ)》この世界で自分の力を増幅することができる力。俺が使える魔法は雷。走る前に使ったのは、雷魔法を体の筋肉に電流を流し、一時的に筋力を増強する効果を得る事ができるがデメリットもある。それはこの魔法は一日に一回しか使えないというところだ。一日一回以上使えないこともないが、それには命の危険が伴う。実際、この魔法が使えるようになってから考えなしに喧嘩の時に使って死に掛けたことがある。だから、俺はこの魔法は一日一回と決めている……のだが、はあ今日これで使えなくなったな、と考えているうちに生徒会室に到着。ちらりと腕時計を見る。8時2分前。よし、なんとか間に合った。そして、堂々と生徒会室の扉を開け、
「ちわぁ~――ごふっ」
適当な挨拶しながら入った瞬間、右からの衝撃によって俺は吹っ飛び、扉と一緒に左の壁に叩きつけられた。
「おそい、雷人!集合は原則5分前っていってるでしょ!何してた?何されたい?3秒以内に答えなさい!」
「痛ってぇなぁ、巴。それにその質問に3秒で答えるのは無理がある、あと遅刻はしてないからいいじゃないか」
とまぁ、真面目に答えたものの聞く耳もってくれる奴なわけないと思ってはいるが…俺の考え道理に同級生で同じ副会長である姫路(ひめじ)巴(ともえ)は、
「うるさい!うちら生徒会役員は常に一般生徒の模範でなければいけないって生徒会目次録の一番最初に書いてあるでしょ!」
「うっ!それは……」
「まあ、まあ、今日は遅刻してないから大目に見てあげて?」
と、いつもと同じように、俺をフォローしてくれるのは、同じく同級生で会計の切裂誠也(きりさきせいや)と
「もう慣れましたし、」
いつもと変わらず俺に対していや、男子に対して毒舌を吐く同じく同級生で書記の俺の義妹(いもうと)の藤波(ふじなみ)清(きょう)香(か)と
「…………」
何も言わずに正面の生徒会長席に座っている同じく同級生で会長の神野(じんの)雪(ゆき)。ここにいる俺を含めた5人がここ月山学院の生徒会だ。ちなみに、俺の役職は副会長。実はえらいんだぞ、俺。
と、そんなやり取りをしていると時計が8時を指し、今まで黙って見ていた雪が、
「時間になった、会議を始める」
静かにしかし、威厳のある声で周りに告げた。それと同時に他のメンバーが自分の席に着きだす。俺も、会長に逆らうと後々面倒なのでここは何も言わずに席に着く。そして、会長の雪が議題を発表し、いつも通りに会議が始まる。
「今日の議題は、2学期が始まってすぐにある校内戦についてだ。今回の校内戦では、前回とは違い順位変動があることは生徒会目次録に書いてあるから知っていると思う。それによって前回の校内戦でこのメンバーになって全員知ったと思うがこの学園においての生徒会の力は絶対だ。、それによって、頭の悪い奴でも実力さえあれば独裁政権をしくことができるということだ。でも、私はこのメンバーとこれからも一緒にやっていきたいと思ってる。だから、次もその次も負けないでほしいと思っている。ということで今回の会議はこれまでということで」
というやいなや会長の雪は生徒会室を出て行ってしまった。そして、会長以外のメンバーはと言うと、全員が沈黙……というか思考停止状態。はっ!とみんな同時に我に帰るや否や、
「はぁぁぁ~!?」
俺はそう言わずにはいられなかった。その後口々に、
「は、え、い、今ので今日終わり!?」
「はぁ…さすがに予想外でしたが、では、私も帰らせていただきます」
と、言いながら清香もスタスタと生徒会室を出て行く。
「じゃあ、僕も帰ろうかな、またね、雷人」
と、清香に続き誠也も帰っていく。その後ろを巴が、
「あ、じゃあ、うちも帰ろうかな。こんな遅刻魔と二人っきりはごめんだわ」
「おう、またな、誠也。巴、今日は遅刻してないぞ!」
なんていつもと変わらない会話をして二人が帰っていく。そして、生徒会室に1人残った俺はというと……、
「これから、どうすっかな~生徒会あるからって予定入れてないのに……」
なんて、真面目にこれからのことを考えていると生徒会室のドアが開いた。そして、入ってきたのは知っている顔だった。
「お兄ちゃん、やっぱりここだったんだね。朝来たら凄い勢いで走って行った人がいたって噂になってたからもしかしてと思ってきたんだけど……」
「なんだ、春か。俺に何か用か?」
こいつは薄井春(うすいはる)。ある事件をきっかけに知り合った一個下の後輩だ。今は、それほど関係ないので、その事件についてはまた別の話。それと、なぜか昔の名残らしく俺のことをお兄ちゃんと呼んでいる。俺は別の呼び方に……と頼んだんだが、ほかの呼び方だと呼びにくいらしく、俺が我慢すればいい話、と自分の中で納得して今に至るわけ。
「うーん、用ってほどでもないんだけど、もう今日は生徒会は終わり?」
「ああ、あの天然会長の気まぐれで呼ばれただけだったよ。それで、みんなもう帰ったから俺も帰ろうと思ってはいるのだが――」
と言うと春は雷人が言いたいことに気づいたらしく、
「今日生徒会の会議があるから予定をまったく入れてなくてこれからどうしようと途方にくれているんだね?」
「途方にはくれていないが……まあ、概ねそんなとこだな。それにしても相変わらず察しがいいな。お前はどうする?先に帰るか?」
そういう雷人に春は、
「ううん。待ってるよ。一緒に帰るために来たんだし、それに今は雷人と二人っきり――」
最後の方はうまく聞き取れなかったがいや、聞こえたが聞こえないふりをして雷人は、
「そうか。立って待つのもなんだし、まぁ、適当に座れよ」
ドアの前に立っている春にそう言って座らせるのだが……春の座った席は何故か俺の隣の席。
「春。いつも言っているが、近い。向かいの席が空いてるだろ?せめて俺の隣以外の席で……」
と、雷人は春に頼むが春は、
「えぇ~、いいじゃん。僕とお兄ちゃんの仲だし、それに誰もいないわけだし」
「いや、どんな仲だよ!それに誰か来て誤解されたら困る。だから、せめて―」
どうにかして離れたい俺の言葉を遮って春が、
「でも、お兄ちゃんは適当に座れって言ったし、それに離れてたらそれも、変に見えるんじゃない?」
と返され雷人は黙るしかなくなってしまう。それを見た春がさらに、少し上目使いで、
「お兄ちゃんは僕のこと嫌い?」
ずるい質問だ。それに聞き方も……そんな聞かれ方したら答えは決まってしまうじゃないか……。
「嫌いではない」
俺はぶっきらぼうにそう答える。しかしこれは、春の思うつぼにはまっている……。
「じゃあ、問題ないってことで。座らせてもらうね」
こうなったら春は手がつけられない。ここは俺が折れる事にして、
「わかったよ。いいよ、隣で。でも、もう帰るぞ?」
そうこう話してるうちに帰れるくらいに回復してきたので春にそう告げ、立ち上がり、生徒会室を出ようとする。
「え!?もう帰るの!?まだそんなに――」
と言いながら春は時計を見ると春が来てからもう30分経っていた。
「うぅ……もう少し一緒にいたかったのに……」
とあからさまにガッカリする春を見ていられなくなり、ついつい甘やかしてしまう。
「そう落ち込むな。この後まだ時間あるし、お前に付き合ってや――」
俺に最後まで言葉を言わせずに春がいきなり抱きついてきた。はぁ、俺って春には弱いなぁ……。
「ほんとに!?お兄ちゃんと行きたいところがあるんだ~。男に二言はないよね?」
とやたら真剣な眼差しで言う春に俺は、
「お、おう……」
と気おされてこれだけしか返事ができないまま、満面の笑顔の春に腕を引っ張られて生徒会室を後にした。
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