私の彼、後ろの彼。
1 悪夢の時間


「いってきます」

私は玄関の扉を開け、家を出た。

とても暖かい、空気が澄んだ朝だった。

 桜が満開に咲き乱れ、時折吹く風で桜の花びらは空高く舞い、羽を広げて自由に飛んでいるかのように見えた。

 腕を伸ばせば、花びらが手のひらに落ちてくるのではないかと期待したが、花びらの行動を予測することは案外難しかった。

 私は一歩、また一歩と、学校への道を進んだ。

 角を曲がり大通りに出ると、ピカピカで真っ赤なランドセルを小さな背中に背負った子どもたちが、はやくはやく、と言わんばかりに母親の手を引いて歩いている。

 同じ1年生でもこんなに違うものなのだろうか。

 キャッキャと笑い、楽しそうにしている小学生を眺めながら、両手を胸にあてドキドキする気持ちを必死で抑えていた。



 4月8日

 今日は光ヶ丘高校の入学式。

 私、長浜璃子(ナガハマ リコ)は、高校1年生になった。

 「大丈夫…。きっと大丈夫」

 私は呟くように、心を落ち着かせるように、後ろを振り返った。

 そこにいる、誰かに向かって…。

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