意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)

 下調べした通り、着実にNY支社に近づいていく。だが、天邪鬼な気持ちもにょきにょき出てきたりして、なかなか足が進んでいかない。

 ビルの目の前までやってきたが、あと少しという所まで来たくせに臆病風が吹いてしまった。

 ビルの目の前には広大な公園が広がっている。緑豊かなその公園では、ランチを楽しむ人もいるようだ。
 ちょうどホットドッグの移動販売車もいることだし、まずは腹ごしらえだ。

 空腹時はネガティブになりやすい自分の性格はよく知っている。
 とりあえずお腹を満たしてから、今後のことを考えるというのも手のひとつであろう。

 スーツケースを引っ張りながら、私はホットドッグの匂いにつられて列に並ぼうとした、そのときだった。
 腕を掴まれ、それを阻まれた。

 新手の詐欺師か、スリか。ありとあらゆる犯罪を思い描き、私は迷わずその腕を掴んで背負い投げをしていた。
 身体が勝手に動いた。そう言っても過言ではないだろう。

 私はこう見えて学生時代は柔道をずっとやっていたのだ。この条件反射は、身体にたたき込んだものである。
 しかし、反射というのは怖いものだ。
 私は投げ飛ばした人間を見て、頭を抱えたくなった。
 
「菊池さんが乗った飛行機の時間は専務から聞いていた。そろそろ来るだろうと思って待機していれば……。久しぶりの再会が一本背負いとは……お見それ致しました」
「木島さん! 大丈夫!?」

 慌てて駆け寄り顔を覗き込むと、そのまま木島に抱きしめられてしまった。

 カッーと一気に身体中が熱くになっていくのがわかる。

 今まで以上に木島に反応している我が身。それを目の前の男に気が付かれなくて慌てて 離れようとしたが、ギュッと力強く抱きしめられていて身動きが取れなくなってしまった。

< 105 / 131 >

この作品をシェア

pagetop