意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)

「貴方たちも仕事に戻られたらいかが? 私はとても忙しいの」

 私が欲しかった役職を持っている二人。全くもってうらやましいし、できることなら失脚でもさせて私が頂きたいぐらいだ。

 だがしかし、曲者たち二人だが仕事ができることは認めている。だからこそ、私はやっぱりもっと二人に近づけるよう仕事をがむしゃらにこなすしかない。

 後輩たちがこぞって黄色い声をあげる“当社のイケメン二人”から視線を逸らし、私は再び仕事しだす。
 そんな私の背後では、なにやらコソコソと内密な話をしているようだったが、私には関係ない。

 ペンを再び持ち書類のチェックをしていると、どうやら密談は終了したようだ。
 やっと静かになる。そんなふうに思っていると、デスクの上に一枚の名刺が置かれた。

「……何?」
「それ、俺の連絡先。なかなか受け取って貰えないから、無理矢理押しつけておく」
「無理矢理押しつけられても困るわね。それにこの連絡先を使うことはないわ」

 すぐに名刺から視線を逸らすと、木島は私の耳元で囁いた。

「お昼、一緒に食おう」
「食べません。お一人でどうぞ」
「全くつれないな、相変わらず」

 木島は苦笑交じりでそう言うと、私の右手首を掴んできた。
 
「っ!」

 驚いたなんてもんじゃない。目を大きく見開き、私の手首を掴む木島をあ然と見つめる。

 すると、木島は柔らかく私に向かってほほ笑んだ。
 一瞬気を抜いたのは拙かった。彼は私が手にしていたペンを抜き取ったのだ。

 慌てる私に、木島は憎いほど爽やかに笑って見せた。

< 28 / 131 >

この作品をシェア

pagetop