意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)

「田中常務。少し落ち着いてください。彼の入室は私が許可しております」
「は……? 専務が、ですか?」

 目を丸くする常務を無視し、専務は木島に促した。

「で、すべて回収できたんだな?」
「はい。これが残りの三個です。これで問題になっていた百個。すべて確認して全部回収してきました」
「ご苦労。回収できたのはそれだけではないだろう?」
「もちろんです」

 デスクの上にアダプタの箱を置き、木島は会議室の面々を見つめた。

「では、私が今回のすべてをお話いたしましょう。まず初めに、処罰を受けるのは菊池主任ではありません」
「はぁ? こんな大事になったんだ。なんとかアダプタすべて回収できたとしても、彼女に何か処罰は下るものだろう!」

 顔を真っ赤にさせ、木島を詰る常務に落ち着きはない。何かを慌てている、そんな感じである。

「常務。ご自分の胸に手を当て、よくお考えください。処罰を受けるのは貴方でしょう」
「なっ!」

 言葉をなくす常務を一瞥したあと、木島は役員の顔を見回す。

「まずは、今回インドネシア工場のスタッフに菊池主任の名前を言って、ドイツ市場に日本流通分のアダプタを混ぜろと指示をしたのは田中常務です。いえ、秘書の女性に言わせたが正しいでしょうか」
「何を言っているんだ! 失礼なヤツだな、君は」

 怒鳴り散らす田中常務を、木島は制止させた。

「黙っていてください。私は今、他の役員の皆様にご報告申し上げている最中です」
「っ!」
「私はありのままの調査結果を述べるのみ。ご静聴ください」

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