意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
18 何かが足りない……?

「菊池さーん、飲んでますかぁ?」
「飲んでいるわよ。それより茅野さん、あなた飲み過ぎじゃない? ほどほどになさい」

 事件が解決して一週間が経った。

 今日は土曜日。仕事が休みの日にこうして課のみんなと飲みに来るのは初めてかもしれない。
 先日のお詫びということで、こうしてお休みの夜に慰労会をすることになったのだ。

 飲めや歌えのどんちゃん騒ぎである。この場でかかったお金はすべて専務持ちということがわかっているので、皆あれでもかこれでもかと散財している真っ最中なのである。

 私に駆け寄ってきた茅野さんは、いつもの陽気が輪をかけてすごいことになっている。
 フラフラして足元がおぼつかない茅野さんを、私の隣に座らせた。

 こちらが注意をしているというのに、当の本人はニコニコと笑っていて怒られているという自覚がないようだ。
彼女を窘めたが、どこ吹く風である。

「だってぇ、嬉しいじゃないですか。菊池主任の処罰は免れたしぃ、なんでも他の悪事も企ていた田中常務とその息子の庶務課長を失脚することもできたしぃ~」
「まぁね……」

 あのあと、すぐに常務と田中の処遇が決まった。

 常務は失脚。息子である田中は関連企業への出向。どちらも迅速に対処して、すぐさま二人の影は本社からなくなってしまった。

 すでに二人をどのように対処するのか決めていたのか、専務の行動は速かった。
 先日の役員会議で初めて会って話したが、やっぱり一癖も二癖もあるような人物に思う。

 確かにこれで良かったのだろう。しかし、そのために営業事業部、そして海外事業部の面々が苦労をさせられたのだ。その件についてはいただけない。

 そういって口を尖らせると、茅野さんはギャハハと大きな声で笑った。

< 97 / 131 >

この作品をシェア

pagetop