ナイショの恋人は副社長!?
同じ年齢くらいの女性なら、きっと、こんな時には彼氏に助けてもらったりするのだろう。

そんなことを考えて、優子は酷く胸が痛んだ。

(副社長にそれを期待しちゃダメだ)
 
敦志に抱きしめられた身体を、自分で包み込むように手を回して力を入れる。
そして、ゆっくりと目を開け、すっくと立ちあがった。
 
優子は苦しそうな表情で裏口に視線を注ぐと、くるりと背を向け、敷地を後にする。
目的地などなく、何も考えずにただ歩いて行った。
 
赴くままに、アスファルトだけを見てふらふらと歩いていると、突然、視界前方に靴が二足映り込み、足を止めた。優子は、異様な視線を感じる気がして顔を上げると、立ち塞がる男ふたりがニッと笑い掛けてくる。

「すみません、ちょっといいですか?」
 
言葉は窺うようなものだが、態度が少しそれに反して強引さを感じる。
優子は男ふたりに近くの路地の方へと押しやられた。

「きみ、ちょっと先にあるデカい会社の受付の子なんだよね?」
「やっぱり、受付に立つだけあって可愛い~」
「え……ちょっと、なんですか?」
 
じりじりと詰め寄られながら、ふたりの男を見る。
 
ふたりとも、優子より少し年上のようで、私服姿。
髪色が明るい茶色なことから、おそらく一般的なサラリーマンではなさそうだ。

元々、大学時代にも親しい友人のいない優子だから、当然、全く心当たりのないふたりだった。
 
怪訝な顔で迫ってくるふたりを見上げていると、片方の男が鼻で嘲笑う。

「受付っていえば、花形ってやつだもんね。そりゃあ、色々食っちゃうよねぇ」
「『食っちゃう』……? いったい何のことを」
「あんた、あれなんでしょ? 上司とか色目使っちゃうタイプ」
 
目を大きくして聞き返す優子に、もうひとりが言葉を続けた。
その言い分に、大抵のことには動じない優子が、さすがに絶句する。

壁に背が当たり、逃げ場を失った状況で、優子はただ目を見開いていた。

「て、ことで。なんつーの? ちょっとした、制裁?」
 
ポケットに両手を入れ、優子に顔を近づけると、男はそう言って笑う。
十数センチの距離で言われた拍子に掛かった息が酒臭くて、優子は顔を顰めた。

「あんま男ナメてると、痛い目遭うって経験するのも必要でしょ」
「なに言っ……」
 
トン、と顔の横に手を伸ばされると、間近で見下ろされる。ニィッと片側の口角を上げた男に、優子は危機感を覚えた。


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