ナイショの恋人は副社長!?


「もうすぐ休憩時間だぁ。今日も一日長いなぁ」
 
今本が腕時計をチラリと見て、小声でぼやく。
優子は笑顔で「そうですね」と同調すると、すぐにフロアに視線を戻した。
 
『長い』と誰かが感じる一方、同じ時間を過ごしていても、『短い』と思う人もいる。
まさに今の優子がそれで、もう午前が終わろうとしてることに軽く落胆した。
 
優子にとっては、勤務時間が唯一、敦志と同じ空間に立てる可能性のある時。
休憩時間は未だかつて、敦志と遭遇したことはない。
受付に立っている時間こそが、敦志の姿を見れる確率が一番高い。
 
そう考える優子にとっては、時間の進み方がとても早く感じてしまうのだ。

「ね。優子ちゃん。今日も先に休憩入ってもいい?」
「いいですよ。毎日一緒で、仲がいいんですね」
 
両手を合わせ、気まずそうに軽く頭を下げる今本に、優子はニコリと笑顔で返す。
 
受付は、基本ふたりだけ。そのため、同時に休憩を取ると、受付が不在になってしまう。
よって、今本と優子は、いつもひとりずつ休憩に入っていた。
そして、今本が先に休憩に入りたい理由はひとつ。

「平日は、お昼くらいしか会えないから……」
「残業が多い部署なんでしたっけ? 今本さんの彼」
「辛うじて休みはあるから、週末会えてはいるんだけどね」
 
照れ笑いをしながら答える今本がすごく幸せそうで、優子は自然と笑みが零れる。

運命的な出会いや、劇的な恋愛とまで言えなくとも、きっと幸せはそこかしこに転がっているのだ……と、優子は思わされた。

「じゃあ、休憩行ってくるね」
「はい」
 
それでも、今現在の優子には、今本と同じような幸せは訪れてはいない。
 
過去を遡っていけば、それに近い時間を過ごしていたこともあるにはあった。
しかし、それも長くは続かず。
初めて異性と付き合い始めた、高校の頃を宙に思い浮かべては溜め息を吐いた。

平穏な幸せを感じられる恋愛でもいいと思っていた。
それすらも、まともに経験がないのだから、それで十分だ、と。

(ダメだな。人間って、欲が深くなって)
 
自嘲気味に、「ふ」と無意識に息を漏らし、膝の上に置いた自分の手を見た。

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