過保護な彼に愛されすぎてます。


『今の声、郁巳くん?』

電話の向こうから聞かれうなづく。

「うん」
『そう。そういえば、郁巳くんのCM見たけど、あれ、カッコいいわねー。思わずネットで箱買いしちゃったわ。ほら、すごく売れたらまた郁巳くんが起用されるかもしれないじゃない?』

ウキウキした声で言われる。
箱買いってことは24本も買ったのか……。うち、炭酸飲料なんて誰も飲まないのに、どうするんだろう。

「そんなに好きなら、郁巳くんに代わろうか?」
『ううん。いいわ。これから出なくちゃなの。仲良くやりなさいね』
「まぁ、それなりにやってるよ」

そっけなく聞こえたのか、お母さんが『またあんたはそんな言い方して!』と、ここにきてヒートアップする。

『あんたは結構気が強いところがあるから、そんなの受け入れてニコニコしてくれる男なんて郁巳くんくらいよ。ちゃんと感謝しなさいね』

結局なんの内容もなかったなぁと思いながら電話を切ると、ソファに座って大人しくしていた郁巳くんが「おばさん、なんだって?」と話しかけてくる。

「んー、とくに話はなかったみたい」
「そういえば、最近もまだ言われるの? 〝いい加減彼氏作りなさい〟って。高校のころからおばさんの口癖だったけど」

笑いながら言われて、私も苦笑いを浮かべる。

「本当、一時期なんて顔を合わせれば言われてた感じがする。……でも言われてみればここ一年くらいは言ってきてないかも」

お母さんも諦めたんだろうか。


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