君を愛さずには いられない
「河村。」

佐竹さんが私を呼ぶのは不測の事態と緊急時しかない。

「はい。」

「悪いが、今日の午後俺の代わりにミーティングに出てくれ。」

ミーティングは主任以上なはず。

体調でも悪いのだろうか?

「構いませんが、私でよろしいのですか?」

「ああ。」

「議長に理由を聞かれたらどう説明すればいいですか?」

「本社から呼び出しくらった。行ってくる。」

「承知しました。お気をつけて行ってらしてください。」

佐竹さんは私を見た。

私の目をじっくりとだ。

いつものにらみを利かせた視線ではない。

未だかってそんな風に何かを意味するように見られた記憶もない。

何だろう。

本社の呼び出しとはどういう事だろうか。

「他に何かありますか?」

私がそう聞いても彼はまだ私を見ていた。

「大丈夫ですか?」

私の怪訝な面持ちに気づいたようだ。

「ああ。」

と言ってやっとカバンを持った。

「行ってらっしゃいませ。」

私はカウンター越しに佐竹さんを見送った。

彼は立ち去る後ろ姿だけで女をイチコロにさせるほどの男だ。

彼の俺様オーラは背中からもにじみ出ていたが

私にはそれが心の幼さを隠しているように思えてならなかった。

< 23 / 56 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop