◆Woman blues◆
太一は私の頬に優しく手を添えると、ゆっくり自分の方に向けた。

「夢輝さん、僕がそうするのは、あなたの為だと言ったらどうしますか」

こくん、と喉が鳴った。

太一の真剣な眼差しが、私の瞳を真っ直ぐ見つめている。

彼のリビングにペタンと二人して座り、私達は見つめ合った。

「夢輝さんの為ならなんだってする。愛してるから」

太一は少し咳払いして続けた。

「本当は……もっと色々考えていたんですが」

……?

太一が眼を伏せた。

「夜景が見えるレストランとか、シンデレラ城を見ながらとか」

太一は尚も続けた。

「凄く良い温泉宿に二人で行った時とか」

太一が何を言いたいのか理解できなくて、私は訝しげに彼を見上げた。

「あ、公園でピクニックとか、そういうほのぼの系のデートもどうだろうとか、色々考えてたんです、本当は」

「……太一?」

すると太一は勢いよく立ち上がり、テレビの隣の棚から何かを取ると私の手を引いて立ち上がらせた。

「太一、どうしたの?」

「結婚してください」

…………。

え……。

……空耳……じゃなくて……?

眼の前に差し出された小さな小さな箱が開いて、そこから本当に綺麗な輝きが溢れている。

嘘。これって……。
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