◆Woman blues◆
だって結婚していずれ妊娠、出産となると、旦那の世話に加えて育児が増えるのだ。

旦那が自分より頼りないなんて有り得ない。

大きな息子が増えるなんてゾッとするもの。

それに、デートの度に仕事のミスを愚痴るような男も嫌。

なんていう風に、あれやこれやと譲れない項目が増えていく度に将来を見据えての相手選びに疲れ、特定の恋人を作らない内に、気がつくと二十代後半から三十代前半が過ぎ去っていたというわけだ。

当時の私はお互いに私生活に踏み込みすぎず、寂しい時だけ傍に寄り添う男がいたら十分だったのだ。

ところがそんな私の前に、初めて結婚したいと思う男……東郷秋人が現れた。

秋人とは仕事で知り合った。

わが社は20代向けのジュエリーをデザインし、製造販売している。

最近では、大手ネット通販会社とも契約し、スマホが普及したこともあって売り上げは徐々にではあるが右肩上がりだ。

そんな中、業界トップクラスのアパレル企業『SLCF』が、ファッションとジュエリーのセット専門通販雑誌の創刊にあたり、ジュエリー部門の契約会社をオーディション方式で選出するという企画が持ち上がった。

わが社も何とか参戦を果たし、私はチームリーダーとして部下を連れ、イチオシの商品を引っ提げて『SLCF』に乗り込んだ。

その審査員兼バイヤーが、秋人だったのだ。

秋人は素敵だった。

今でもよく覚えている。

『株式会社A&Eです。どうぞよろしくお願い致します』

そう言って一礼した私達を優しい眼差しで見つめ、商品のコンセプトを説明する私の話に熱心に耳を傾けていた秋人を。

秋人からデートに誘われた時は、天にも上る気分だった。
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