ドルチェ~悪戯な音色に魅せられて~
キール
「…………朝、?」

眩しい光に照らされて目が覚めた。
ーーーっ頭痛い。

「ここ、どこ?」

見慣れない景色に辺りを見回して、自分が何も着ていないことに気づく。
なんでだ…………。

「…………あっ!」

昨夜のことを思い出した途端、体がカッと熱くなる。

隼人さんはっ!?

私は大きなベッドに一人で寝ていて、シンとした室内には私以外誰かがいる気配はない。

「いない……」

それを意味するのは、簡単なこと。
ほら、やっぱりね。
私、騙されたんだ。


「惨め」

膝を抱え、誰もいないなら泣いてしまおうと瞼を閉じた。



の、だが。

「やっほー。ツンデレラ姫の往診に来てやったぞ」

「…………え?」
「寂しかった?」

眼鏡をかけて、白衣を着た隼人さんが爽やかに微笑んでいる。
昨日の夜とは正反対で、初めて会った時みたいな、眼鏡が似合う草食系の……。
いや待って。
昨日の、夜……、私ハダカッ!!

「きっ、きゃぁっ!?」
「何恥ずかしがってんの」

ベッドの端に腰かけシーツに隠れる私の足をハラリとあらわにする。

「ちょっとタイム!」
「はぁ?」

だって、こんな太ももが出るまで捲らなくていいよね!
ってゆうか、私の服どこっ!?

「俺忙しいんだから大人しくしてろ」
「あ、すみません」
「痛みは?」
「……昨日よりは」

隼人さんは淡々と私の足首や頬を看て、何かに気づいたように「ん?」と首を傾げ、そのままニヤリと眉を上げた。

「もしかして遊ばれたとか思って泣いてた?」
「っ!そんなわけっ」
「そっかぁ。ごめんなー?」
「だから違います!」
「ハハッ。お前、可愛いね」
「かっ、かわ!?」

なんかもう、昨日から性格変わりすぎっ!
意地悪っぽくて偉そうなのはそのままだけれど、あの口から冗談とか『可愛い』なんて言葉が出るようなタイプだとは思わなかった。

「後で迎え来るから~」

なんか怖いくらい鼻歌混じり。
ヒラヒラと手を振りながら出ていく彼の背中を眺め、溜め息を吐く。
驚いたのは、癪にもほっとしている自分がいるということ。

「遊ばれたわけじゃ、なかった……?」


それだけで、胸の奥が甘くざわめいた。
これは恋になるのだろうか。
男の人に甘酸っぱく胸が高鳴る感覚なんて、……久しぶりすぎてまだ認められない。


「シャワーでも浴びて目覚まそ」

うーん、と。

「私の服、どこ……?」
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