気まぐれイケメン上司に振り回されてます!
「景さん!」

彼だけに特別に用意された作業ルームのドアをノックして勢いよく開けると、彼は作業デスクではなく、お洒落なガラステーブルの横にある黒いソファに腰かけて足を組んでいた。
気だるげにわたしの方へ首だけ振り向き、口許に笑みを浮かべる。

「そろそろ来る頃だと思ったよ」

少しだけ癖のついた黒髪に、男性モデルのような綺麗な顔立ち。黒いボトムスにジャケットを着たシンプルな格好は、スタイルの良い彼にとても似合っている。きっと、第一印象は誰もがかっこいいと思うだろう。

デザイナーの吉葉 景《よしば けい》二十八歳。その繊細そうな容姿に騙されたらダメ、彼はかなりのくせ者だ。

「今日こそは、残って仕事していってもらいますからね」

「ええ、無理だよ。今日は帰りたい」

「“今日は”って、いつも早く帰っているじゃないですか! 自分の仕事が進んでいないのに帰るなんてありえないですよ」

「いいじゃん、納期は守れてるんだし」

「よくないです!」
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