気まぐれイケメン上司に振り回されてます!
わたしが睨むように見ていると、景さんはにこりとした。

「俺には俺のペースがある。それを乱されたくない」

思わずドキッとしてしまう、とても綺麗な笑顔。
いやいや、胸を鳴らしている場合ではない!

「納期の近いデザインの資料を焦って集めだすわたしたちのことも考えてくださいよ!」

「君たちにはとても感謝してるよ。とくに春ちゃんは、俺によくついてきてくれてるし」

「それなら、もっとわたしの苦労を減らしてください!」

そう言ったわたしに、景さんは面白くなさそうな顔をした。

「春ちゃんさ、いつもすごい怒るよね。俺のこと嫌いでしょ?」

わたしはどう答えようか迷って黙り込む。
まったく、なにを言っているんだろう。わたしは、いつも取り掛かるのが遅い彼を付き合いの長いアシスタントとしてやる気にさせたいだけ。

むしろ景さんのことは嫌いじゃなくて……好きだ。

それは、同じ職場の仲間としてとか、尊敬というものを通り越して『恋心』だったりする。

わたしが働き始めた年に、景さんは勤めていた事務所をやめてこの会社にやってきた。若いころから才能の塊で、“吉葉がデザインした広告商品は人気がでる!”と言われ、彼を指名して頼むクライアントは多くいる。

だから自由奔放でも景さんは容認されていて、特別扱いなのだ。それをするだけの価値が、彼にはある。
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