密星-mitsuboshi-
午前0時をまわり
テーブルの上にはロックグラス2つと漬物が並んでいる

早紀は緊張を隠しながら時が経つのを待っていた

渡瀬は麦焼酎のロックを飲みながらタバコに火をつけ横向きにふぅーっと白い煙を吐いた

「最初、
 林田と付き合ってるのかと思ったよ」

「え?
 私がですか?!」

林田をそのような対象で見たことがない早紀には
思いもよらない言葉だった

「…仲はいいですけどそうゆうのとは違うっていうか…
そもそも私は林田さんの好きなタイプには当てはまらないですから」

「そーなの?」

「はぃ、林田さんの好きなタイプは
 “年上で優しく、甘えさせ上手でキレーなお姉さん”のはずです」

渡瀬は思わず飲んでいた焼酎を吹き出した

「キレーなおねーさんて…
 あいつそんなこと言ってんの?」

「飲むとよく言ってますょ」

「あいつ年上が好きなんだー
 知らなかったー」

渡瀬は林田の意外な好みを知り楽しそうにしている
早紀も一緒になって笑いながらチラリと壁にかけられた時計に目をやった
時計の針は0:15を指していた

豊森へ向かう最終電車が出るまであと5分
間違いなく間に合わない
早紀は少しホッとしていた
これでもうしばらく一緒に居られる
自分のズルさに心で苦笑った

それからしばらくは共通の話題として林田の話を肴に飲み続けた

午前1時をまわった頃
最初から数えて6杯目となるグラスを空けた渡瀬が腕時計に目をやった

「やべっ!もう1時じゃん。
 終電大丈夫?
 悪い、気づかなくて」

申し訳なさそうに謝る渡瀬を見て
少し心が痛んだが

「私は大丈夫ですょ
 タクシーで帰れますし…
 課長ももぅ終電終わっちゃってますよね?私も気がつかずにすいません…」

早紀は顔色変えずに嘘がでてくることに
自分で自分に驚いた


「俺は大丈夫だよ。満喫もあるしね
 …それじゃあ、明日もあるし
 2時まで付き合ってくれる?」

渡瀬は腕時計を見てからそういうと
早紀の空になったグラスを指差した

「はい…」

早紀は笑顔で答えた

2時までだろうと一緒にいられる時間が繋がったことが嬉しい
早紀は素直にそう思った

渡瀬は店員を呼ぶと、
同じものを と一言いうと
すぐに新しいロックグラスが目の前に並んだ

「赤宮駅って言ってたけど、一人暮らし?」

「はぃ。でも実家が目の前のアパートなのでほとんど寝るだけですが」

「実家の目の前?」

「兄が結婚して同居を始めて部屋が足りなくなったので、
この機会に一人暮らしするって言ったら
実家の目の前のアパートに偶然空きが出てそこに住むことになっちゃいました」

「そうなんだ。きっと親御さんは近くにいて欲しかったんだね」

「私としてはせっかくならちゃんと1人でやってみたかったですけどね」

渡瀬はまたタバコに火をつけ、白い煙を上げた

「俺は高校卒業してこっちに出てきてからずっと一人でやってきたけどやっぱり近 くに親がいるのはいいなと思うよ」

渡瀬は高校を卒業してすぐに入社して以来10年近く1人でやってきて今や課長職についている
若くしてそれなりに高い地位についているということは、
人よりたくさん苦労や努力をしてきたということ
なのだろう
早紀は渡瀬のあげる白い煙を見つめていた


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