密星-mitsuboshi-
23時半をまわったころ
水歌の瓶を持った店員がテーブルに現れたのはこれで4度目になる
顔色を変えずに飲み続ける早紀を見て
赤みがさした顔の渡瀬は驚き感心していた
「なかなか強いね」
「そんなことないですよ
これでも少し酔っ払ってますよっ」
早紀は笑って見せた
身体は少しふわついていたがあくまでシラフを装っていた
偶然が重なっただけだったとしても
2人きりでお酒を飲んでいるこの状況は早紀にとってほとんど奇跡だった
目の前に座る渡瀬が
自分にだけ話しかけて
自分だけを目に映す
そのことが嬉しくて全てを覚えておきたかった
「それにしても監査、長かったですね」
「あぁあれは本当にまいった。
揃える資料と書類が多すぎて集中して仕事ができなかったし、渡された評価と改善点がなかなかヘビーな内容で…
審査部もそれなりの内容だったみたいで
まぁ反省会というか対策会というかで
飲みに行ったんだけど…」
渡瀬は肴のホタルイカの沖漬けをつついた
「吉田さんの話を聞いてるといろいろ見直さないといけないところがあるなーって思ったよ
社員たちには少し負担かけちゃうけど、
少しでも昇給昇格させてあげたいから頑張らないと」
ー 部下想い ー
早紀は林田の言葉が浮かんだ
会社としての部署や責任者、各社員の評価基準はそれぞれあるが、監査部から受ける評価はまた別物だった
会社の評価基準よりはるかに重視される監査部の評価はいうまでもなく重要
評価が悪ければ3ヶ月後に再度監査が行われる
「…ヘビーな評価って再監査ですか?」
「いや、今回は俺は着任して日が浅いから再監査にはならなかったけどまぁ手前かな」
「手前…確かにヘビー」
「まぁそれはそれで実状として受け入れて改善するしかないからね
腕の見せ所…」
ピピピピッ ピピピピッ
言い終わる前に着信音が鳴った
渡瀬は胸ポケットから振動するスマホを取り出し画面を見て
「ちょっと電話出てくるね」
そう言って店の外へ出て行った
早紀はその姿を見送ると自分のスマホを出し
終電時間を調べ始めた
東京→赤宮 0:28
そしてもう一件
東京→豊森 0:20
渡瀬の乗る終電は早紀の電車より8分早い
遅くても0時には店をでないと乗り遅れる
今の時刻は23:40
早紀は、渡瀬が電話から戻ったらきっとこの時間が終わってしまうと少し寂しい気持ちになった
早紀は目の前の升の中に残った水歌をグラスに移し一気に飲み干した
23:50
渡瀬が店内へ戻ってきた
「ごめんね長くなっちゃって」
「いえ、大丈夫ですよ」
早紀は次に渡瀬の口から出る言葉で夢から覚めることを覚悟していた
「さてと…
グラス空だね、何飲む?」
「えっ…?」
「まだ水歌いく?それとも違うのにする?」
「えっ、あ…そぅですね
えっと…焼酎にしようかな」
「わかった、じゃ俺もそうする」
次をオーダーしたらきっと終電に間に合わなくなる
このまま何も言わずに渡瀬に付き合い飲み続けるか
それとも終電の時間だと自分からこの時間を終わらせるか
早紀の中で答えは決まっていた
もしも渡瀬が終電のことを忘れているなら思い出してしまうまで気づかなかったことにしよう
最悪タクシーで帰ればいい
この時間を終わらせることはしたくなかった
水歌の瓶を持った店員がテーブルに現れたのはこれで4度目になる
顔色を変えずに飲み続ける早紀を見て
赤みがさした顔の渡瀬は驚き感心していた
「なかなか強いね」
「そんなことないですよ
これでも少し酔っ払ってますよっ」
早紀は笑って見せた
身体は少しふわついていたがあくまでシラフを装っていた
偶然が重なっただけだったとしても
2人きりでお酒を飲んでいるこの状況は早紀にとってほとんど奇跡だった
目の前に座る渡瀬が
自分にだけ話しかけて
自分だけを目に映す
そのことが嬉しくて全てを覚えておきたかった
「それにしても監査、長かったですね」
「あぁあれは本当にまいった。
揃える資料と書類が多すぎて集中して仕事ができなかったし、渡された評価と改善点がなかなかヘビーな内容で…
審査部もそれなりの内容だったみたいで
まぁ反省会というか対策会というかで
飲みに行ったんだけど…」
渡瀬は肴のホタルイカの沖漬けをつついた
「吉田さんの話を聞いてるといろいろ見直さないといけないところがあるなーって思ったよ
社員たちには少し負担かけちゃうけど、
少しでも昇給昇格させてあげたいから頑張らないと」
ー 部下想い ー
早紀は林田の言葉が浮かんだ
会社としての部署や責任者、各社員の評価基準はそれぞれあるが、監査部から受ける評価はまた別物だった
会社の評価基準よりはるかに重視される監査部の評価はいうまでもなく重要
評価が悪ければ3ヶ月後に再度監査が行われる
「…ヘビーな評価って再監査ですか?」
「いや、今回は俺は着任して日が浅いから再監査にはならなかったけどまぁ手前かな」
「手前…確かにヘビー」
「まぁそれはそれで実状として受け入れて改善するしかないからね
腕の見せ所…」
ピピピピッ ピピピピッ
言い終わる前に着信音が鳴った
渡瀬は胸ポケットから振動するスマホを取り出し画面を見て
「ちょっと電話出てくるね」
そう言って店の外へ出て行った
早紀はその姿を見送ると自分のスマホを出し
終電時間を調べ始めた
東京→赤宮 0:28
そしてもう一件
東京→豊森 0:20
渡瀬の乗る終電は早紀の電車より8分早い
遅くても0時には店をでないと乗り遅れる
今の時刻は23:40
早紀は、渡瀬が電話から戻ったらきっとこの時間が終わってしまうと少し寂しい気持ちになった
早紀は目の前の升の中に残った水歌をグラスに移し一気に飲み干した
23:50
渡瀬が店内へ戻ってきた
「ごめんね長くなっちゃって」
「いえ、大丈夫ですよ」
早紀は次に渡瀬の口から出る言葉で夢から覚めることを覚悟していた
「さてと…
グラス空だね、何飲む?」
「えっ…?」
「まだ水歌いく?それとも違うのにする?」
「えっ、あ…そぅですね
えっと…焼酎にしようかな」
「わかった、じゃ俺もそうする」
次をオーダーしたらきっと終電に間に合わなくなる
このまま何も言わずに渡瀬に付き合い飲み続けるか
それとも終電の時間だと自分からこの時間を終わらせるか
早紀の中で答えは決まっていた
もしも渡瀬が終電のことを忘れているなら思い出してしまうまで気づかなかったことにしよう
最悪タクシーで帰ればいい
この時間を終わらせることはしたくなかった