密星-mitsuboshi-
「大丈夫か?」

渡瀬は力の抜けた早紀の体を起こし胸に抱いた
早紀はその胸に顔をうずめ目をつぶると
渡瀬の早く力強い鼓動を聞きながら

「大丈夫です…」

と一言つぶやいた
早紀を抱く腕に力を込もる

「…酔った勢いだったと思ってる?」

早紀はただ黙って聞いていた

「お前がベッドから離れようとした時
 急に不安になって、
 気づいたら手を引いてた」

渡瀬はそう言いながら早紀の手を取り指をからませた

「横断歩道で転びかけた時も腕を引い
てくれましたね」

「普段なら人の足元なんか見ないのに
 あの時は目の前でキラキラと光が目に
入ってよく見たらマンホールの上に
その足が乗ったのを見てたから
 だからとっさに手が出せたんだよ」

「…じゃあ私が転ばないですんだのは
ヒールについてたストーンのおかげ
ですね」
 
早紀はベッドの下に置かれたネイビーのパンプスに目をやった

「ヒールの傷、直したんだね」

「…課長が気にしてくれてたし
それに課長と出会わせてくれた幸せの靴…
きっと私、横断歩道で助けてもらった時から課長のことが好きになってたんだと思います
…だから酔った勢いだったとしても、今こうしていることが嬉しい…なーんて♪
私も酔ってるんですかね」
 
早紀はそう言ってフっと笑った
その瞬間、渡瀬は早紀の顎を押し上げ上から唇を強く押し当てそのままベッドに倒れ込んだ
やっと顔を離した渡瀬は早紀をまっすぐに見た

「酔った勢いじゃない
同じ場所で働いてる女にそんな危険なことはしない」

渡瀬の目は真剣だった

「課長…」

「助けたときから気になってた
ぶつかった時もそう。
転ぶわぶつかるわ何て危なっかしいんだって。
またどっかでつまづいてたり転んだりしてるんじゃないかって
…心配になる」



「…心配?…もしかして…」

「?」

「東京駅の長い上りエスカレーター、
 乗る時いつも私を前に乗せるのは…」

「あぁ…またヒールがハマったり足を踏
み外して後ろにいれば安心だろ?」

エレベーターも歩くスピードも早紀を気づかった渡瀬の優しさだった

早紀は心の中から湧き上がるものを止められず
渡瀬の両頬をに手のひらをあて強く引き寄せ
黒い瞳の中に自分の顔が映るのを見た

「…あなたが好き」

湧き上がるものが言葉になって出る
早紀は目の前にある唇に吸いついた
それに応えるように渡瀬も早紀の唇を開き舌を絡ませる
激しく そして優しく

渡瀬は舌をほどき早紀の頬に触れた

「俺のものになれ・・・」

早紀の全身は頭からつま先まで風が撫でたようにざわめきだち
涙が一筋流れた

早紀は小さくうなずいてほほ笑んだ
少しピンク色に染まった微笑みは渡瀬の目にはとても儚く綺麗に映った
白く華奢な身体を抱きしめる腕に力が入る

2人はもう一度
肌と肌を重ね体温を感じた
そして
互いの心も重ねてひとつになった
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