密星-mitsuboshi-
18時少し前、吉田は再度早紀を呼んだ
パソコンを前に難しい顔で腕を組む吉田のもとへ行くと
「ほんっとに悪いんだけど、
これのやり方教えてくれる?」
吉田はそう言ってパソコンのディスプレイを指差した
「明後日の報告会で使う資料なん
だけど、いくら計算式を入れても
表に反映しなくてさー
どうしたらいいの?」
早紀は吉田の隣についてゆっくりとやり方を説明しながら教えていった
バラバラだった数字や資料が綺麗に出来上がっていく様を見て
雲が晴れていくように理解していくことが楽しくなってきた吉田は、
早紀にあれこれと質問していき、
そして気がつけば時計の針は21時をさしていた
審査部の社員は、課長代理の小林だけがパソコンに向かって残務をこなしているだけだった
管理部はといえば夜勤務の社員が3名ほどお客様と電話で話し込んでいたが、
課長席に渡瀬の姿はなかった
「あー悪い!調子にのってたらこんな
時間になってた
本当に申し訳ない」
言葉の通り、本当に申し訳なさそうに頭を下げて謝る吉田
「いいえ大丈夫です
お役にたててよかった!」
早紀は笑顔で返した
「いや~けっこう出来るようになった
よね?
先生の教えがよかったのかな
あとは忘れないようにしないとな」
吉田はディスプレイの中の報告書を見て満足そうに頷いた
「それは生徒が優秀だったからですよ
もぅバッチリです♪」
「嬉しいこと言ってくれるね~
そうだ、
こんな時間になっちゃったし
よかったら定食でも食って帰るか」
早紀はチラリと時計を見た
時刻は21時を過ぎている
渡瀬との約束が気になっていた
「おーい、小林くん
飯食って帰らないか~?」
吉田の席から一番遠いところに座っている小林に、吉田が座ったまま亀のように首を伸ばして声をかけた
小林は独身で、坊主に近い短髪で
体が大きくスローだが、目がくりくりしていて可愛い印象を受ける
「あっはい!自分もお伴しますっ」
小林が大きな体を揺らしながら吉田のもとへとやってきた
「何食う?定食でいい?
俺あっさりしたもんが食べたい
んだよな~」
吉田が胃のあたりをさすりながら小林を見上げる
「そぉっすね~自分もここのところ
肉が続いてるんで」
小林と吉田の夕食選びの会話を聞きながら
主のいない渡瀬の席に目をやった
(もしかしたら待ってるのかな?)
そう思ったら早紀は無性に渡瀬に会いたくなった
「課長っ、すいません
私、用を思い出したので今日は
帰ります」
「そぉか~そりゃ残念だ
このお礼は後日、ランチでも
ご馳走するよ
本当に助かった、ありがとう」
吉田はニコリと笑い軽く手をあげた
早紀が会社を出たのは21時半少し前だった
教えることに集中していて、渡瀬が帰ったことにも気がつかなかった
スマホの画面を開いてみても渡瀬からの連絡はない
駅に着くまでの間に渡瀬の番号に電話をかけたが数回コールすると留守番電話に変わってしまった
とりあえず早紀は東京駅に向かう電車に飛び乗った
東京駅のホームの後ろ側、乗りかえ階段へと急ぐ
階段を一気に登って改札を出ると、
そこには誰の姿もなかった
(もう、帰った?)
はぁはぁと息を切らせながらも、早紀はもう一度渡瀬に電話をかけた
何コールか呼び出した後で、少し低い渡瀬の声が耳の中に響いた
「もしもし」
「あっ!もしもし?
ごめんなさい、21時の約束、
遅れて、今改札に」
「遅い」
「ごめんなさい…
もう帰っちゃった?」
「左見て」
早紀はそう言われてすぐに左側に顔を向けた
そこには大きな柱の裏に寄り掛かった渡瀬がスマホを耳にあてながら
早紀を見ていた
その姿を見るなり早紀は渡瀬のもとへ急いだ
「ごめんなさい、吉田課長に」
言い終わる前に渡瀬は早紀の腕を引いてそのまま強く抱きしめた
「!」
「…良かった。
来ないかと思った」
電話ではない、耳元で聞こえる生の渡瀬の声に早紀は体の力が抜けるのを感じた
微かに擦れた声が震えたように聞こえたのは気のせいなのか、早紀は渡瀬の腕の中でぼんやり考えていた
早紀の頬を両手で触った渡瀬の手は冷く冷え切っていた
「手が冷たい
ずっとここで待ってたの?」
「あぁ」
「…ごめんなさい、
どこか温かい所にいてくれたら
よかったのに
風邪ひいちゃう」
早紀は渡瀬の手をぎゅっと握った
「ここで待ちたかったから。
…この前と逆だな」
そう言うと、渡瀬は口元だけ笑った
早紀はこの場所で1時間半以上も待たされたことを思い出して、フッと笑った
「会いたかった」
渡瀬はもう一度早紀を抱きしめた
パソコンを前に難しい顔で腕を組む吉田のもとへ行くと
「ほんっとに悪いんだけど、
これのやり方教えてくれる?」
吉田はそう言ってパソコンのディスプレイを指差した
「明後日の報告会で使う資料なん
だけど、いくら計算式を入れても
表に反映しなくてさー
どうしたらいいの?」
早紀は吉田の隣についてゆっくりとやり方を説明しながら教えていった
バラバラだった数字や資料が綺麗に出来上がっていく様を見て
雲が晴れていくように理解していくことが楽しくなってきた吉田は、
早紀にあれこれと質問していき、
そして気がつけば時計の針は21時をさしていた
審査部の社員は、課長代理の小林だけがパソコンに向かって残務をこなしているだけだった
管理部はといえば夜勤務の社員が3名ほどお客様と電話で話し込んでいたが、
課長席に渡瀬の姿はなかった
「あー悪い!調子にのってたらこんな
時間になってた
本当に申し訳ない」
言葉の通り、本当に申し訳なさそうに頭を下げて謝る吉田
「いいえ大丈夫です
お役にたててよかった!」
早紀は笑顔で返した
「いや~けっこう出来るようになった
よね?
先生の教えがよかったのかな
あとは忘れないようにしないとな」
吉田はディスプレイの中の報告書を見て満足そうに頷いた
「それは生徒が優秀だったからですよ
もぅバッチリです♪」
「嬉しいこと言ってくれるね~
そうだ、
こんな時間になっちゃったし
よかったら定食でも食って帰るか」
早紀はチラリと時計を見た
時刻は21時を過ぎている
渡瀬との約束が気になっていた
「おーい、小林くん
飯食って帰らないか~?」
吉田の席から一番遠いところに座っている小林に、吉田が座ったまま亀のように首を伸ばして声をかけた
小林は独身で、坊主に近い短髪で
体が大きくスローだが、目がくりくりしていて可愛い印象を受ける
「あっはい!自分もお伴しますっ」
小林が大きな体を揺らしながら吉田のもとへとやってきた
「何食う?定食でいい?
俺あっさりしたもんが食べたい
んだよな~」
吉田が胃のあたりをさすりながら小林を見上げる
「そぉっすね~自分もここのところ
肉が続いてるんで」
小林と吉田の夕食選びの会話を聞きながら
主のいない渡瀬の席に目をやった
(もしかしたら待ってるのかな?)
そう思ったら早紀は無性に渡瀬に会いたくなった
「課長っ、すいません
私、用を思い出したので今日は
帰ります」
「そぉか~そりゃ残念だ
このお礼は後日、ランチでも
ご馳走するよ
本当に助かった、ありがとう」
吉田はニコリと笑い軽く手をあげた
早紀が会社を出たのは21時半少し前だった
教えることに集中していて、渡瀬が帰ったことにも気がつかなかった
スマホの画面を開いてみても渡瀬からの連絡はない
駅に着くまでの間に渡瀬の番号に電話をかけたが数回コールすると留守番電話に変わってしまった
とりあえず早紀は東京駅に向かう電車に飛び乗った
東京駅のホームの後ろ側、乗りかえ階段へと急ぐ
階段を一気に登って改札を出ると、
そこには誰の姿もなかった
(もう、帰った?)
はぁはぁと息を切らせながらも、早紀はもう一度渡瀬に電話をかけた
何コールか呼び出した後で、少し低い渡瀬の声が耳の中に響いた
「もしもし」
「あっ!もしもし?
ごめんなさい、21時の約束、
遅れて、今改札に」
「遅い」
「ごめんなさい…
もう帰っちゃった?」
「左見て」
早紀はそう言われてすぐに左側に顔を向けた
そこには大きな柱の裏に寄り掛かった渡瀬がスマホを耳にあてながら
早紀を見ていた
その姿を見るなり早紀は渡瀬のもとへ急いだ
「ごめんなさい、吉田課長に」
言い終わる前に渡瀬は早紀の腕を引いてそのまま強く抱きしめた
「!」
「…良かった。
来ないかと思った」
電話ではない、耳元で聞こえる生の渡瀬の声に早紀は体の力が抜けるのを感じた
微かに擦れた声が震えたように聞こえたのは気のせいなのか、早紀は渡瀬の腕の中でぼんやり考えていた
早紀の頬を両手で触った渡瀬の手は冷く冷え切っていた
「手が冷たい
ずっとここで待ってたの?」
「あぁ」
「…ごめんなさい、
どこか温かい所にいてくれたら
よかったのに
風邪ひいちゃう」
早紀は渡瀬の手をぎゅっと握った
「ここで待ちたかったから。
…この前と逆だな」
そう言うと、渡瀬は口元だけ笑った
早紀はこの場所で1時間半以上も待たされたことを思い出して、フッと笑った
「会いたかった」
渡瀬はもう一度早紀を抱きしめた