プリテンダー
家に帰ると、思っていた通り杏さんは言葉少なく、僕の作った夕飯をゆっくりと口に運んだ。

夕飯後、入浴を済ませると、いつものようにソファーに座ってノートパソコンに向かい、キーボードを叩いて何やら文字を打ち込んでいた。

ビックリするほどいつも通りだ。

さっきまで笑っていた杏さんと同一人物とは思えないほどの仏頂面だ。

わかってはいたけど、自分が偽物の婚約者でしかない事を改めて思い知らされる。

それでもほんの少しの時間でも、杏さんが楽しそうに笑ってくれて良かったと思う不可解な自分に苦笑いした。


僕が入浴を済ませてリビングに戻ると、杏さんはソファーの上で寝息をたてていた。

目一杯遊んで疲れたのかな?

初めての遊園地は驚きと初体験の連続で、息をつく暇もなかったんだろう。

それとも、僕との慣れない恋人ごっこに疲れたのかも。

杏さんは社泊の翌朝に見るより、少しあどけない寝顔をしている。


…かわいいな。


動かすと起こしてしまいそうで、僕は自分の部屋から持ってきた布団を、杏さんの体にそっと掛けた。


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